ビジネスマンの皆さんのなかには、寝不足の方が少なくないのではないでしょうか。サッカーのコンフェデレーションズカップが、地球の裏側のブラジルで開催されているからです。現地時間に合わせると完全に昼と夜が入れ替わるわけですから、大変な思いをしている方もいることでしょう。
私は現地でテレビの解説をしているため、日本とブラジルの間に横たわる12時間の時差は関係ありません……と、言いたいところですが、仕事のやり取りは日本時間に合わせますから、早朝に電話を受けたりします。なかなか大変ですが、国際大会の現場にいる高揚感は疲れを吹き飛ばしてくれます。
コンフェデレーションズカップには、各大陸選手権の優勝国もしくは、それに準ずる成績を残した国に加え、来年のワールドカップを開催するブラジルがホストとして出場しています。ブラジル、ウルグアイ、スペイン、イタリア、メキシコといった強豪国が集う少数精鋭の大会ですから、ワールドカップに比肩するハイレベルな攻防が繰り広げられています。日本が戦ったグループリーグは、ワールドカップなら間違いなく”死のグループ”と言われたでしょう。
サッカーのリーグ戦は、日本でも海外でも週末に1試合が基本です。しかし、2週間で優勝国を決めるコンフェデ杯では、中2日から3日のペースで最大5試合をこなさなければなりません。しかも、ヨーロッパ主要リーグでプレーしている選手は、長いシーズンが終わったばかりです。日ごろから鍛えられた選手たちでも、肉体的な負担はかなりのものがあるでしょう。
日本について言えば、ワールドカップアジア予選とまったく次元の違う戦いでした。その相手が、日本をしっかりと分析してくるのです。自分たちの良さを出すことは、いつも以上に難しくなります。
しかし、そのなかで勝点をあげなければ、世界の頂点は見えてきません。そういう意味で、今大会の日本の戦いぶりは興味深いものがありました。
ブラジルとの開幕戦は、メンタル的に受けにまわったことが完敗を招きました。対照的にイタリアとの第二戦は、アグレッシブな姿勢が接戦を生み出しました。試合展開としては、イタリアには勝ち切らなければいけなかったですが……。
この2試合を戦術的観点から分析すると、「仕掛ける」ことの重要性が浮かび上がります。日本のパスサッカーは世界で通用すると言われますが、ボールを回しているだけでは相手は怖くありません。
大切なのは、どれだけリスクを冒せるか。リスクを冒すタイミングを、見極められるかです。
ブラジル戦の攻撃は、具体性に欠ける企画書のようでした。派手なタイトルはついているけれど、費用対効果の見通しは曖昧で、どのように企画を成功させるのかという実効性に乏しい。日本代表にとっての企画、つまりブラジルから勝点を奪うために必要なチャレンジもリスク管理も、最後まで徹底されないまま試合が終わってしまいました。
イタリアとの第2戦は、まったく違う表情をのぞかせました。ワールドカップ優勝経験を待つ強豪に臆することなく立ち向かい、前半途中にして2対0とリードしました。その後の試合展開は詰めの甘さを残しましたが、3対4という撃ち合いはスリル満点でした。日本とは別グループの解説を担当していた私も、「イタリア戦の日本は素晴らしかったね」と何度も声をかけられました。
ところが、メキシコとの第3戦はブラジル戦に逆戻りです。ゴールまでの道筋が具体化していないサッカーは、結論のない企画書のようでした。
試合間隔が短い。試合ごとに移動があった。直前にワールドカップ最終予選があり、十分な準備ができなかった。トップパフォーマンスを阻害する要因があったのは事実です。ですが、いつでもベストコンディションを求めるのは、そもそも間違った認識です。
1999年にアフリカのナイジェリアで行なわれた20歳以下のワールドカップに、私は日本代表のコーチとして帯同しました。複数の試合会場を移動し、シャワーのお湯が出ないホテルにも泊まり、もちろん日本食が食べられない環境は、ひと言でいえば過酷です。アフリカですから、暑さが厳しいのは言うまでもありません。試合をしていないコーチの私でさえ、3週間強の滞在で4、5キロも体重が落ちたほどです。
チームは小野伸二、高原直泰、稲本潤一、中田浩二、小笠原満男らで構成され、現在の代表チームに欠かせない遠藤保仁もメンバーのひとりでした。FIFA(国際サッカー連盟)主催の大会で、史上初となる決勝戦まで勝ち残りました。決勝戦で対戦したスペインには、コンフェデ杯にも出場したシャビ(FCバルセロナ)がいました。
選手たちはみな、逞しかったですね。日本サッカーに新たな歴史を刻むんだという真っ直ぐな思いが、連戦に疲労ややストレスを言い訳にせず、むしろ笑い飛ばすような原動力となっていました。
海外クラブで活躍する本田圭佑や香川真司が中核を担う現在の代表チームは、技術的な水準なら世界のトップクラスです。それでも、コンフェデ杯のような大会では3連敗に終わってしまう。
彼らに足りないものは何か。どのような状況でも力を発揮する、結果を残すという覚悟でしょう。
チームを取り巻く我々も、同様の覚悟を抱くべきです。何か言い訳を見つけて敗戦の痛みを癒すのは、建設的ではありません。1年後に同じ悔しさを味わわないためにも、代表を見つめる視線は厳しくあるべきです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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