このところ、「おもてなし」という言葉を良く聞きます。東京オリンピック招致の最終プレゼンテーションで使われたものですが、日本という国を、日本らしさを説明するのに、とてもふさわしい言葉ですね。
サッカー日本代表も「日本らしさ」という言葉を使います。アルベルト・ザッケローニ監督も選手たちも、「日本らしいサッカー」とか「自分たちのサッカー」といった表現をひんぱんに使います。
「これが日本のサッカーだ」というスタイルを確立するのは、もちろん悪いことではありません。自分たちのサッカーは、きちんと作り上げるべきです。しかし、いつでも、どこでも、どんな相手でも「日本らしいサッカー」を追求するのは、勝利への近道とは言えません。
サッカーはホーム&アウェイが基本です。強豪と呼ばれる代表チームやクラブも、敵地での一戦は戦い方を変えます。たとえば、パスをつなぐサッカーが得意なチームでも、アウェイゲームではロングボールを積極的に使います。自陣や中盤でパスを廻している際に、相手側にカットされるのを防ぐためです。
アウェイゲームは判定にさじ加減が加えられることがあります。レフェリーは公平なジャッジを心がけていますが、大観衆の圧力は見逃せません。ホームチームの激しいプレーが、ファウルにならないことも起こり得るのです。
敵地に乗り込むチームは、自分たちのプレーがいつもより厳密にさばかれ、相手のプレーはやや甘くジャッジされると想定しておかなければなりません。「自分たちのサッカー」への拘泥は、危険を招いてしまうのです。
ブラジルで開催される来夏のワールドカップは、ブラジルと対戦しないかぎりホーム、アウェイの区別はありません。日本対イタリア、日本対アルゼンチンなどは、中立地での開催となります。ジャッジにさじ加減が加えられることもないでしょう。だからといって、「自分たちのサッカー」に突き進んでいいものか?
否、そうではありません。3試合の勝点で順位を決めるグループステージと、一発勝負のノックアウトステージでは、戦い方が変わってくるはずです。
時間帯も考慮しなければなりません。1対0で勝利していて、残り時間が10分を切った。同点に追いつかなければならない相手は、日本のゴール前へどんどんボールを入れてくる。さあ、どんな対処をするべきでしょう。
奪ったボールを自陣からつないでいくのが日本のサッカーですが、自陣でボールを奪い返されるのは避けたい。パスをつなぐ余裕がなければ、割り切って前線へ蹴り出してもいいでしょう。パスをつなぐのは、ゲームをコントロールし、得点を奪い、勝利ための「手段」です。「目的」ではありません。1対0で逃げ切るという目的を果たすには、別の手段を使うべきなのです。
アジアを舞台とした戦いでは、「自分たちのサッカー」を高めることで勝利を引き寄せられました。細かな駆け引きが必要とされる場面は、ほとんどなかったと言っていいでしょう。
ワールドカップはそうもいきません。9月12日にアップデートされた最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングで、日本は42位となっています。このランキングをもとにワールドカップ出場32か国が決まるとしたら、日本はブラジルヘ辿り着けません。世界のトップクラスとはなおも実力差があることを、正しく認識する必要があります。
グループステージを突破してベスト16入りするには、日本よりランキングが上位の国を、少なくともひとつは破らなければなりません。ベスト16の壁を越えて8強入りするには、格上からさらにもうひとつ勝利をつかまなければならない。ザッケローニ監督のチームが目ざす頂は、かくも高く険しいものなのです。
だからこそ、戦い方の使い分けが重要なのです。先のコンフェデレーションズカップで対戦したブラジルだって、日本相手に緩急をつけて戦ったではありませんか。戦い方の使い分けは、連戦を乗り切るための対処法でもあるのです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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