今回は、サッカーのテレビ中継について考えてみたいと思います。
サッカー解説者としての私は、NHKで仕事をさせていただいています。J1リーグは土曜日開催がほとんどで、キックオフ時間は昼間の15時か夜の19時になります。時間帯によって視聴者層は変わってきますし、地上波と衛星放送でも中継をご覧になる年齢層が違います。
地上波で昼間に放送される中継なら、必ずしもサッカーファンばかりが観ているわけではないでしょう。たまたまチャンネルを合わせた主婦の方が、ひとりで画面を見つめているかもしれない。サッカーにあまり詳しくないお祖父さんやお祖母さんが、お孫さんや知り合いのお子さんのゲームを観ていることもあるでしょう。あるいは、熱心なサッカー好きの旦那さんが、奥さんと子どもさんに自分の好きなチームを熱く語っているかもしれない。
様々なシチュエーションを前提にしながら、「サッカーの魅力を伝えること」と、「次はスタジアムで観たい」と思う人を増やすことを、私は放送席に座る際のスタンスとしています。
サッカー用語の使い方には注意を払います。
具体例をひとつあげてみましょう。
「アタッキングサード」や「バイタルエリア」と聞いても、サッカーに詳しくない方は分からないと思います。視聴者に伝わらなければ自己満足に過ぎません。ですから私は、「ペナルティエリアの近く」と置き換えます。
こういった例は少なくなりません。ポジションやシステムも、ひと言添えれば分かりやすくなります。「システムは4-4-2」と済ませるのではなく、「ディフェンダーが4人、ミッドフィールダーが4人、フォワードが2人で4-4-2のシステムになります」と説明することで、疑問が解ける人がいるかもしれない。時間にすればほんの数秒ですから、サッカー通の方々にも耳障りではないでしょう。
「ハットトリック」だって、「1試合に3得点」と説明を加えたい。ケース・バイ・ケースでそうした対処をするように、私は心がけています。
余談になりますが、「ダイレクトプレー」という用語が間違って使われているケースがあります。パスを受けた選手がトラップをせずにパスをしたり、シュートを打ったりするのは、ダイレクトプレーではなくワンタッチプレーと言います。手数をかけずに素早く相手ゴールヘ向かう流れを、ダイレクトプレーと表現します。
テレビ中継でサッカーに触れてもらえる機会が、現状では決して多いと言えません。そのうえ、解説者が専門用語を並べたら?一般の視聴者を、置き去りにしてしまうことになります。
テレビ中継で「なるほど」とか「すごいな」と思ってもらえなければ、サッカーへの関心は高まりません。日常生活で、話題に上がることもありません。そんな状況で、企業が「Jリーグに投資しよう」と考えるでしょうか。
少し極端な言い方をすれば、小さいお子さんをお持ちのママ友の集まりや、老人ホームなどでサッカーが話題にならなければ、スポンサー集めに苦労する実状は打開できないのではないでしょうか。
そう考えると、サッカーとは直接的に関係のないカップリングを、模索してもいいかもしれません。女子高生に支持されているグッズと、何らかのコラボレーションを仕掛けてみる、とか。女性誌の表紙に『Jリーグ』の文字がいつも躍るようになれば、企業のサッカーに向ける視線は熱を帯びてくるはずです。
2015年からJリーグが2ステージ制を採用することになした。2ステージ制になる前に、Jリーグの、サッカーの、魅力を高めていくために、いまからでもできることがあるはずです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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