アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表が、3月5日にニュージーランドと対戦します。「えっ、ニュージーランド? もっと強いところと試合をしたほうがいいんじゃないの?」と、思う方がいるかもしれません。チームの”強化”を最優先に考えると、ニュージーランドが物足りない相手なのは事実です。
2002年の日韓ワールドカップで、私は日本代表のコーチを務めました。その経験に照らし合わせてみると、ニュージーランド戦の意図が浮かび上がってきます。
昨年11月のベルギー戦を最後に、日本代表は試合をしていません。ニュージーランド戦は、およそ4か月ぶりのゲームとなります。この空白期間を埋めることが、今回の試合のひとつ目のテーマでしょう。「チームコンセプトの確認」です。
ザック監督のもとで何十試合も消化してきた選手ばかりですから、頭のなかではコンセプトを理解しています。ただ、日本代表と所属クラブでは、必ずしも役割が同じではありません。
たとえば本田圭佑は、日本代表なら「トップ下」と呼ばれる中盤の中央が定位置です。しかし、ACミランでは中盤の右サイドでプレーしています。ドイツ・ブンデスリーガで好調な岡崎慎司も、クラブと代表ではポジションが変わります。
代表とクラブでポジションが同じでも、与えられる役割が異なる場合もあります。
このタイミングで眠っていた感覚を呼び覚まし、「日本代表ではこういうプレーをしなきゃいけないんだよな」と、選手たちに改めて感じてもらう機会がニュージーランド戦なのです。そのためには、世界のトップクラスよりも自分たちと同等、あるいは少し力の落ちる相手と対戦するほうがベターです。強豪国に翻弄されたら、コンセプトの確認どころではなくなってしまいますので。
ふたつ目のテーマは「チームの輪」を深めることです。短い期間ですが寝食をともにすることで、ザッケローニ監督と選手、選手同士が理解し合う機会とするのです。
海外でプレーしている選手には、所属クラブ公認で帰国できる貴重な機会です。自分の身体を良く知る日本代表のメディカルスタッフに、「実はちょっとここが気になるんだけど」といった相談もできます。ニュージーランドとの真剣勝負に臨みつつ、ピッチ外でも充実した時間を過ごすことができるでしょう。これは、国内でテストマッチを行なう大きな利点です。
ザッケローニ監督は、これまでと同じ先発メンバーでニュージーランド戦に臨むことでしょう。変化があるとしたら、柿谷曜一朗(セレッソ大阪)が発熱で辞退したフォワードのポジションでしょうか。4-2-3-1のフォーメーションの「1トップ」です。
メディアやサポーターの皆さんは、「1トップは柿谷か、それとも大迫勇也か?」と議論を戦わせているかもしれません。
それぞれに特徴は違います。柿谷は、DFラインの背後へ抜け出したり、香川真司や本田とのコンビネーションで崩したりするのが得意です。一方の大迫は、最前線でボールを収め、攻撃の起点となるポストプレーにうまさを見せます。
日韓ワールドカップを経験した私の意見では、対戦相手の特徴を分析したうえで、力を発揮できるほうを選ぶべきです。
「自分たちのサッカー」を追求するのは重要ですが、たとえば相手の守備陣が小柄なら、長身のフォワードを使って空中戦を仕掛ければ優位に立てます。第1戦で戦うコートジボワールは、どんな特徴を持っているのか? 第2戦のギリシャは、コートジボワールとどこが違うのか? そして、相手が嫌がるのは柿谷なのか、大迫なのか? ザック監督も、すでにそういったスカウティングを進めていることでしょう。
ひとりに固定するのは危険です。ワールドカップという大会は、プレッシャーのかかり方が尋常ではありません。中4、5日で試合を消化していき、試合と試合の間には移動もあります。知らず知らずのうちに、選手たちは疲弊しています。
ましてや、柿谷と大迫にはワールドカップの経験がありません。オリンピックにも出場していません。体力と気力をどのようにコントロールしていくのかは手探りです。
それを考えても、「どちらか」ひとりではなく、「どちらも」使うという考え方が良いでしょう。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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