ハビエル・アギーレ監督率いる日本代表が、11月14日と18日に行われたテストマッチで連勝を飾りました。北中米カリブ海地区のホンジュラスを6対0で退け、アジアのライバルのオーストラリアに2対1で競り勝ったのです。
これまで日本代表に選ばれたことのない選手や、国際経験の少ない選手を積極的にテストした9月、10月のテストマッチは、1勝1分2敗でした(注)。チーム結成直後とはいえ低空飛行の印象は拭えず、アギーレ監督は方向転換へ舵をきりました。ブラジルW杯に出場した34歳の遠藤保仁、31歳の今野泰幸を招集し、30歳の長谷部誠もチームに呼び戻しました。さらに、ブラジルW杯での代表引退も示唆していた内田篤人も復帰させました。
この結果、ホンジュラス戦のスタメンにはブラジルW杯の代表が10人も並びました。続くオーストラリア戦では、システムも4-2-3-1にしました。それまで一貫して採用してきた4-3-3ではなく、アルベルト・ザッケローニ前監督のもとで慣れ親しんだ戦い方へ戻したのです。
4-3-3で臨んだホンジュラス戦にしても、アギーレ監督は個人的な都合でチームを離れ、試合前日しか練習を見ることができていません。つまり今回の連勝は、ザッケローニ前監督のもとで構築された土台を生かしたものだったのです。厳しい言い方をすれば、選手任せでつかんだ白星でした。
私が「選手任せ」と言うのは、オーストラリア戦の前半に理由があります。実はこの試合も、4-3-3でスタートしました。ところが、若くて経験も少ないオーストラリアに主導権を握られ、攻撃の糸口を見つけられない。4-2-3-1への変更は、苦肉の策だったのです。
アギーレ監督にとって最初のターゲットは、来年1月に開催されるアジアカップです。アジア最強の代表チームを決めるこの大会に優勝すれば、2017年に行なわれるコンフェデレーションズカップに出場できます。
プレW杯の位置づけになるこの大会に参加することは、世界のトップクラスと真剣勝負ができるだけでなく、W杯で使用されるスタジアムでプレーし、大会と同じホテルに宿泊するなど、準備においても大きな意味を持ちます。2011年大会に続いてアジアの頂点に立ち、何としても出場権を獲得しなければならない。
遠藤、今野、長谷部らの経験者をチームに加えたのは、アジアカップで優勝するためのメンバーを選ぶというアギーレ監督の意思表示でしょう。そうでなければ、世代交代を遅らせる意味がありません。現時点ですでに、”世代後退”が進んでしまっているのですから。
W杯で日本代表を指揮したフィリップ・トルシエ、ジーコ、ザッケローニらの監督は、すべてアジアカップで優勝を飾っています。この大会で優勝を逃してしまうようでは、W杯を託すことはできないというのが私の考えです。
次のロシアW杯は4年後に開催されますが、「まだ時間がある」と考えるのは間違いです。来年からは早くもW杯予選が始まり、日本代表のスケジュールはアジアの真剣勝負に費やされることが多くなります。世界を意識した強化を進めにくいだけに、コンフェデレーションズカップのような公式戦は価値が高いのです。
2014年の日本サッカー界を振り返れば、世界はおろかアジアの壁を痛感させられてばかりでした。日本代表はブラジルW杯でグループステージ敗退に終わり、若年層の代表はU-17(17歳以下)、U-20(20歳)の世界大会出場を逃しました。1993年にU-17世界選手権に出場して以来、すべての年代別代表チームがアジア予選で敗退するのは、実に21年ぶりということになります。
日本代表や年代別代表の強化に携わってきたひとりとして、このような現状には危機感を抱かずにいられません。一刻も早く改革に乗り出さなければ手遅れになる、というのが私の認識です。
来年のアジアカップで優勝を逃すようなことがあった場合は、日本サッカー協会の組織そのものにメスを入れ、強化方針を抜本的に練り直す必要があるでしょう。日本サッカーの強化に携わる人々は、もっと危機感を持つべきなのです。
(注)国際サッカー連盟(FIFA)は11月19日までに、ベネズエラのメンバーに国際Aマッチで出場停止に相当する選手が含まれていたとして、この試合の結果を「日本の3対0の勝利」とする見解を示しました。しかし本項では、この試合がアジアカップへのテストという位置づけを持つことから、実際の結果の「2対2」を反映したものとしています。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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