とにかくまずは、「良く戦った」と言いたいですね。女子W杯で準優勝したなでしこジャパンです。
W杯の前哨戦の位置づけだった3月の国際大会で、なでしこジャパンは過去最低の9位に終わりました。女子W杯に出場しないデンマークに苦杯をなめ、強豪のフランスには1対3で完敗したのです。
それから3か月という短い時間で、佐々木則夫監督はチームをしっかりと建て直しました。かつて日本ユース代表でともにプレーし、現在は同じ指導者の立場にある彼のマネジメントで、私が感心されられたのは選手の使い分けです。
女子W杯は今大会から参加国が増え、それに伴って試合数が増加しました。これまで8か国で争われた決勝トーナメントが、16か国によるものとなったのです。優勝するためには7試合──グループリーグで3試合、決勝トーナメントで4試合を戦い抜かなければならない。
女子の国際大会では誰も経験のない7試合を乗り切るために、佐々木監督はグループリーグの3試合で全選手を起用しました。ゴールキーパーも3人全員を使いました。
佐々木監督にとって今回のW杯は、五輪も含めると通算5度目の世界大会です。監督としての経験は大会屈指と言ってもいいもので、それゆえに選手をうまく使い分けることができたのでしょう。
準決勝までの6試合は、すべて1点差でした。「薄氷を踏む勝利」といった報道もありましたが、私は正反対の見かたをしていました。緊張感の高い接戦を連続で制したチームは、確かな地力が備えていました。しかも、延長戦にもつれた試合がありません。決勝戦までの道のりで、なでしこジャパンは勝負強さを示したのです。
なでしこジャパンの次なるターゲットは、来夏のリオ五輪です。五輪の男子サッカーは年齢制限がありますが、女子は通常の国際大会として開催されます。
読者の皆さんの興味は、「世代交代が行わるのかどうか?」に集まっていると思います。しかし、五輪での戦いを考えるまえに、アジア予選を勝ち抜かなければなりません。
今回の女子W杯には、アジアから5か国が出場しました。ところが、五輪の女子サッカーは12か国で争われるため、アジアの出場枠はわずかに「2」です。先のW杯で8強入りした中国とオーストラリア、同ベスト16進出の韓国、さらには朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)らのライバルと、「2」つの出場権を争うのです。
W杯出場国が顔を揃えるリオ五輪アジア最終予選は、来年2月末から3月上旬に開催されます。残り約8か月という時間を考えると、チームをドラスティックに変えるのは得策ではありません。そうかといって、何の変化もないままでは停滞感を招きかねない。難しい判断を迫られます。
私が気になるのは、日本サッカー協会と佐々木監督の契約です。9月末までの契約を速やかに更新し、佐々木監督へのバックアップ体制を構築していくべきでしょう。
並行して進めたいのは、指導者の育成と若年層の強化です。
W杯の出場国が16か国から24か国へ増えたことで、私は「大会のなかで力の差が広がってしまうのでは」と考えていました。結果は予想を覆すもので、平均的な水準が上がっていることを印象づけました。女子サッカーも確実にグローバル化しているのです。
そうした流れのなかで、継続的に結果を残していくには──近未来のなでしこジャパンを担う若年層の強化と、その選手たちに接する指導者の育成が欠かせません。
サッカーピラミッドの頂点にある代表チームが結果を残しているうちに、5年後、10年後を見据えた強化と育成を進めていく。利益を生み出すために投資が必要なのは、ビジネスでもサッカーでも変わらないのです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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