1月の男子サッカー五輪予選、2月の女子サッカー五輪予選に続いて、日本代表がロシア・ワールドカップのアジア2次予選に挑みました。3月24日のアフガニスタン戦に勝利したことで、日本は最終予選進出を決めました。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の就任から、1年が経過しました。3月29日のシリア戦は、監督就任後の通算15試合目でした。
14年のブラジルW杯でアルジェリアを率いたハリルホジッチ監督は、世界基準から逆算してチームを作っていきました。手持ちの戦力を精査し、世界におけるアルジェリアの立ち位置を把握し、グループステージ突破を果たしました。
日本代表監督としても、基本的に同じ方法論を用いています。攻撃にタテへのスピードを求め、攻撃から守備、守備から攻撃への切り替えの速さもチームコンセプトの核に据えました。速さを追求する具体的手段として、ワンタッチプレーも積極的に取り入れていきました。
就任第1戦のチュニジア戦、同第2戦のウズベキスタン戦では、ハリルホジッチ監督の狙いがピッチ上で表現されました。前方向へのパスが増え、相手の守備陣の背後を突くプレーや、味方選手を追い越す動きが目立ちました。チュニジアには2対0、ウズベキスタンには5対1で勝利し、イラクを迎えた就任第3戦も4対0で快勝しました。
ところが、シンガポールとのW杯2次予選の開幕戦は、0対0のスコアレスドローに終わります。そして、2次予選での日本は、結果こそ残すものの消化不良のゲームを続けていくことになりました。
日本の選手たちを、ハリルホジッチ監督を悩ませたのは、対戦相手の戦いかたでした。チュニジアやウズベキスタンは、自分たちの力にそれなりの自信を持っていました。テストマッチですから、負けても失うものはありません。そういった背景から、彼らは自分たちの良さを発揮しようとしてきました。
W杯予選で対戦相手は、まったく違いました。日本と最後までグループ首位を争ったシリアも、シンガポールも、アフガニスタンも、ゴール前をひたすらに固めてきました。スピーディな攻撃で相手を置き去りにしようとしても、相手の選手のほとんどは自陣にとどまっています。ワンタッチでパスを出そうにも、スペースは埋められています。その結果、一人ひとりがボールを持つ時間が長くなり、攻撃のスピード感が落ちてしまったのです。
世界での戦いを想定するハリルホジッチ監督からすれば、タテヘのスピードの追求は譲れないものでしょう。しかし、私には選手が委縮しているように感じられました。委縮という表現が大げさであれば、戸惑いの色が浮かんでいたと言えばいいでしょうか。いずれにせよ、日本の選手たちはもっとできるはずなのに、チームとしても個人としても輝いていない、という印象は2次予選の最後まで付きまといました。
ハリルホジッチ監督も、善後策を講じました。今回の2試合には、194センチの長身フォワードのハーフナー・マイクを始めて招集しました。スピードのある攻撃ができないのなら、高さに活路を見出す準備をしておこう、という判断だったでしょう。
ヘディングの強いハーフナーを生かすためには、ゴール前に正確なクロスを供給できる選手が必要です。その役を担ったのは、清武弘嗣でした。ドイツ・ブンデスリーガのハノーファーで司令塔を務める彼は、キックの精度に定評があります。こうした選手の起用は、ハリルホジッチ監督の変化と言えるでしょう。もっと早く気づいてもいいはずだと、私自身は感じていましたが。
クラブチームか代表チームかを問わず、監督は選手のストレスや迷いを回収しなければなりません。それは、選手がピッチで躍動するための前提条件です。
自分が思い描くサッカーは大切ですが、ハリルホジッチ監督は選手の良さを引き出すことにもう少し力を注ぐべきでは──9月に開幕する最終予選へ向けた、私なりの提言です。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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