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今回の「プロフェッショナルに訊く!」は、富士通のシニアエバンジェリスト(ワークスタイル変革担当)の松本国一さん。働き方改革やDXなどをテーマに、昨年は166回の講演・セミナーに登壇されたそうです。そしてそのうちの88回がオンライン登壇。オンライン講演のプロフェッショナルでもある松本さんに、その技術を聞きました。
聴講者は、オンラインでも講師をもっと見たい
このインタビューはオンラインで行われたのですが、まず私の画面に驚かれたようです。背景はスタジオのCGです。私は右端に立っていて、左側にはパワーポイントのスライド画面が浮かび上がっています。
オンライン講演でまず注意をしなければいけないのは、リアルで目の前に聴講者が座っている環境とは大きく違うということです。もちろん話だけ聞ければいい、というケースもあるわけですが、多くの場合、聴講者は講演者そのものが見たい。講演者とコミュニケーションをしてみたいのです。
リアル講演の魅力は、まさにそれができるからですが、オンラインでも聴講者のニーズは多くのケースで同じです。単に話を聞くだけでなく、ビジュアルが大事になるし、双方向のコミュニケーションが取れる環境を作ることが大事になるということです。
ところが、例えば資料を画面共有してしまえば、講演者は小さく端っこに映るだけです。しかも、顔だけがアップになっていると与えられる情報は極めて少なくなってしまいます。身振り手振りもない。
こうなると、同じ講演内容でも、「なんだか前より面白くなかったね」などということになってしまいかねない。聴講者は講師をもっと見たいのです。たくさんの情報が欲しいのです。そうでないと、聞いていても面白くなくなる。だから、ビジュアルを作り込むことが、とても重要になるのです。
ビデオスイッチャーの「ATEM Mini」を使う
もちろん、ここまで凝る必要は必ずしもありませんので、後ほどもっとシンプルなビジュアルの作り方についても語りますが、せっかくですから私のビジュアルについて説明しておきましょう。
これは、私の自宅の八畳間をスタジオにしています。いわゆるクロマキー合成のシートを背にして背景のスタジオ風の画像を合成、さらにパワーポイント画面も合成しています。
この合成を可能にしているのが、ビデオスイッチャーの「ATEM Mini」です。ハンディカムなどのビデオカメラのHDMIポートを入力できる装置です。4つまで映像を入力・合成し、USB-CポートでパソコンをつないでWebカメラとして表示できます。
かつてクロマキー合成は、アプリだけで300万円ほどかかる時代がありましたが、ビデオスイッチャーを使えば、約4万円でできるようになります。私の場合は、これを2台つないでいます。
ハンディカムビデオを持っていないなら、iPhoneをHDMIで出力するためのフリーウェアのアプリ「Air Mix SOLO」が使えます。このアプリを入れると、iPhoneを情報やアイコンが出ないビデオカメラとして使うことができます。iPhoneで取った自分の映像を、資料に重ね合わせて表示して、聴講者に配信することが可能です。
一瞬、大きなスタジオやたくさんのプロユースの機器でも揃っていなければできないのかと思われるかもしれませんが、ちょっとした先行投資で、ビジュアルを充実させることができるのです。
ちなみに、私はカメラから2mほど離れていますが、聴講者が映っているノートパソコンは外付けモニタに映し出してカメラの真下あたりに置いています。そうすれば、目線が聴講者と外れません。
オンライン講演でも、立っているだけでまったく印象が変わります。普通に座ったままの講演だと、多くの聴講者が普段のウェブ会議の延長になってしまいかねない。講演の特別感がまるで出ないのです。せっかく講師が来ているのに、いつもの会議と同じような雰囲気ではやはりもったいない。
また講師の側も、リアル講演のときのように全身を使って情報を発信していくことができます。人も資料も、どちらも見てもらえる環境が、オンラインで実現するのです。
オンライン講演で最低限、必要なもの
そこまでのビジュアルは……という方もおられると思います。では最低限、必要な準備物、注意点などを解説していきたいと思います。
ウェブカメラ――スマートフォンで代用も可能
まず重要なのは、カメラです。お気づきの方も多いと思いますが、パソコン内蔵のカメラは高品質とは残念ながら言えません。きちんとカメラを用意したほうがいいでしょう。
最も手っ取り早い方法は、スマートフォンを使うことです。しかも、先に書いたHDMIに変換しなくても使う方法があります。iPhoneなら、アプリ「iVCam」を使うことです。これをパソコンに入れ、iPhoneをパソコンのUSBにつなぐと、iPhoneがウェブカメラになるのです。投資はアプリ代で500円、ケーブルは添付品が使えます。
iPhoneをカメラにした場合は、スタンドが必要になります。私が使っているのは3COINSで買った自撮り棒です。三脚にもなりますから、iPhoneをはさんでPCの裏側に立てれば、ウェブカメラに早変わりです。こちらの投資は1000円ほど。
ビデオカメラを持っているなら、先に紹介した「ATEM Mini」に入力する方法もありますが、HDMIビデオキャプチャーを購入すれば、パソコンのUSBポートにつなげられ、ウェブカメラモードで表示できます。安いものなら、700円程度で売られています。
2台のPCを使い、HDMIの入力にPCの映像を入れれば、プレゼン資料をそのままWebカメラ映像として流すことができます。動画やアニメ・音声をたくさん使うときは、画面の切り替えが大変ですが、そんな場合も自分で制御でき、スムーズに流すことができます。
立ってもケーブルが届くか。ライト、マイクも必須
画像のクオリティを上げるには、いわゆるウェブカメラを買えばいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、多くのケースでUSBポートまでの長さが短いことが少なくありません。身振り手振りを見せるには、距離が必要ですが、それができないのです。これが、距離を取れるビデオカメラをお勧めする理由です。
ビデオカメラを三脚に固定し、距離を置けば、身体の大部分を映して講演することができます。実際、座りながらだと自分のテンポがつかめない、発声がうまくいかないという声もよく耳にします。
立って講演することができるオンライン環境を作ることで、リアル講演と同じようにしゃべることができます。自分の講演スタイルに合ったリモートのやり方をぜひ検討してみてほしいと思います。
ライティング――聴講者は講師の顔を見たい
カメラに付随するところでは、必須といえばライティングです。私は大型のビデオライトを使っています。ライティングは意外に重要です。顔が暗く見えると画面が見づらいですし、印象がよくない。何より、聴講者は講師の顔を見たいのだ、ということを忘れてはいけないです。
マイク――音質で印象アップ
また、マイクも大切です。PCのマイクはあまり音質がいいとは言えません。聴講者の印象は、音でも大きく変わってしまいます。私は10種類以上のマイクを試しましたが、今オンラインでメインに使っているのは、ソニーのピンマイク「PC-60」です。3000円ほどで買えます。
小さなスタンドがついていて、PCの前に置いても使えます。ケーブルも2mありますから、パソコンからの距離があっても大丈夫。私は「ATEM Mini」のマイクポートに入れて使っています。
イヤホン――連絡をスマートに伝えてもらう
2台のパソコンのうち1台は講演依頼者や聴講者が見ている画面につないでいますが、こちらにはイヤホンをつないでいます。百均で購入した5mのケーブルのイヤホンです。テレビのアナウンサーのように片耳だけに入れていて、講演依頼者からの要望などがここで聞こえるようにしています。
オンライン講演の当日にしておくこと
必要なものは手元に揃えておく
意外に忘れがちなのは、必要な書類やモノなどを手元にしっかり揃えておくことです。移動しなくてもいいようにしておく。オンライン講演では身体の動きが見えてしまいますから、始まってから動くのはあまり格好のいいものではないです。座って行う場合も、手元に一通り置いてからスタートしたいですね。
ネットワーク環境の確認
それと、早めにネットワーク環境を確認しておくことです。オンライン講演はトラブルが起きやすい。もちろん、依頼者も聴講者もそれはわかっているのですが、できるだけ避けたいものです。ネットワーク環境がよくなかった、間違ったURLに接続してしまった、つないだはいいが声が出ない、など起こりえます。
聴講者を待たせてしまうことだけは避けなければいけません。インフラ環境は、リアルよりも慎重に確認したほうがいいですね。
私は開始30分から1時間前にはつないで、ミュートにしてライブで流しておくようにしています。
オンライン講演を盛り上げるコツ
せっかくいい講演者、いい資料、いい話が揃っているのに、普段のウェブ会議と変わらないスタイルでは残念な評価になってしまいません。きっちり演出や絵づくりを考えることが大切になります。
はっきりと自分の顔の表情がわかる明るさにする。動きのある表情を意識する。ビジュアルの工夫と合わせてセッティングを意識していきたいところです。
また、オンライン講演では講演者とのコミュニケーションがとりにくいので、ここもカバーすることが大切です。例えば、チャットを積極的に使ってもらう。どんどん質問などを入れてもらう。チャットで双方向のコミュニケーションをして演出を盛り上げる方法はとても有効です。
実際、リアル講演では聴講者とやりとりしながら講演を進めていくスタイルの方もおられます。オンラインでも、チャットを活用することで、それが可能になる。リアル講演とは異なるオンラインならではの演出ができるはずです。
それこそ同じ画面でも、テレビを観ているのと違うのが、オンライン講演です。テレビでは、相手に話しかけることなどできませんが、講演ならできる。インタラクティブ性はとても大切です。
大事なことは、講演依頼者や聴講者に納得感を持ってもらうこと。そうすることで、あの講師をまた呼びたいな、と思わせることにつながります。そのためには、単なる映像コンテンツに成り下がることなく、聴講者に入り込んで彼らに価値を提供していく意識を持つ必要があります。双方向の取り組みは、強く意識したいところです。
アフタートークや、始まる前のトークを楽しんでもらう
オンライン講演を何度もやっていて、個人的に興味深かったことがあります。それは、終わった後のアフタートークがとても盛り上がったことです。アフタートークは、リアルにはできないもの。言ってみれば楽屋トークですが、本番ではできなかった裏話などをすると、とても喜ばれます。
一度、800人規模のオンラインイベントで、400人くらいの方が残って、アフタートークを聞いてくださったことがあります。それだけ、楽屋トークは聞きたい人がいるんだな、と思いました。
新しいSNSとして注目されているClubhouseも、楽屋トークに近いですよね。しかもリアルタイムでアーカイブもない。だから、人気になっているのだと思います。
場合によっては、始まる前にちょっとした楽屋トークをするのも面白いかもしれません。それこそ、Clubhouseを使うのも、ひとつの方法でしょう。リラックスした楽屋トークから、パッとまじめな本番に切り替わる。これもまた、新鮮だと思います。
オンラインの世界は、新しい技術がどんどん出てきます。だから大事なことは、チャレンジをしていくことです。使い方をどんどんアップデートしていく。なんとなくこれを揃えて定番パターンに、なんて考えていると飽きられてしまいかねない。
前と同じだね、と思われたら辛いのがオンライン講演です。環境もやり方も、どんどんアップデートする意識を持ってほしいと思います。
オンライン講演のよくある失敗
マイクがミュートのまま話し続けてしまう
なんといってもマイクのミュートでしょう。まったく気づかずにミュートのまま5分、10分としゃべってしまった、なんてケースもあるようです。これでは、場がしらけてしまいます。マイクがミュートになっていないか、スタートする前の直前確認は必須ですね。
また、先にも書きましたが、講演依頼者から緊急事態の連絡をもらえるようにするためにも、2台のパソコンのうちの1台をイヤホンにつないでおいて、連絡をもらえるようにしておく、というのもトラブルを防ぐ方法です。
ネットワーク回線のトラブル
もうひとつ、怖さがあるのがネットワークです。とりわけモバイルルーターを使っているときには、電波状況によっては品質が悪くなって、ノイズが発生したりしかねない。音声品質の悪さは、聴講者には実はとても厳しい印象になります。
モバイルルーターを使うときには、もう一台、別キャリアのもの用意しておくことが無難だと思います。違うキャリアなら、電波状態が変わるからです。
また、家の回線を使う場合は、無線LANではなく有線LANをお勧めしています。Wi-Fiは不安定なときがあるからです。実際、5GHzと2.4GHzがありますが、後者は電子レンジをオンにするだけで通信が止まってしまうというのは知られるところです。
現実に、在宅勤務になりキッチンで電子レンジを使ってしまい、ピタッとネットワークが止まってしまったという声を耳にしています。こうしたリスクを避けるためにも、有線LANが理想です。
講演中だと知らない家族が入ってきてしまう
もうひとつ加えると、家族に「この時間は講演をしている」ときっちり伝えておくことでしょうか。そうでないと、突然、家族が部屋に入ってきたり、大声で家族に名前を呼ばれたりしてしまう。よく起きていることです。
会社のオンライン会議なら笑い話で済みますが、数百人が聞いているオンライン講演で登壇者になるとなれば、そうはいかない。要注意です。
携帯電話の着信音が聞こえてしまう
携帯電話はオフにしておく、というのはリアル講演と同じ注意点です。
オンライン講演の未来とは?
とても大きなポテンシャルがあると思っています。以前、中国にいる人とパネルディスカッションをオンラインで行ったことがありますが、3000キロも離れたところにいる人と、同じ画面でディスカッションできるのは、オンラインだからできることです。
そうでなければ、どちらかが3000キロを移動して、隣に座らなければならなかった。それをしなくていいわけですから、とんでもないポテンシャルだと思います。
また、私は自宅スタジオ風の画面を背景にしているわけですが、こういうセットでやりたいから、作ってください、なんてことはまず無理でしょう。ところがオンラインなら、映像上で何でもできる。デジタル上に好きな場所を、今までにはない演出の場を簡単に作ることができるわけです。
登壇者はマイク一つ持っているだけで、自らが変える気があればいくらでも場を変えることができる。これは、聴講者にとっても大きな魅力だと思います。
もちろんリアルなイベントはなくならないと思いますが、オンラインは交通費もかかりませんから、むしろイベントそのものの数は増えていくのではないでしょうか。そして講師の方々は、日本中、さらには世界中に自分のアピールができる。活躍の場も広がっていくのです。
オンライン講演開催の心構えとは?
オンライン講演が始まったら、すべてを見られている、という意識が必要です。ともすれば、誰もまだ見ていないのではないか、などと錯覚することもあるのですが、実際には見られています。だから、事前にしっかり整えておくものは、整えておかないといけない。
ミュートもせずに、始まる前にがさごそと書類を触っていたりすると、リアルな講演でマイクからガサガサ音が会場中に聞こえているようなものだと認識する必要があります。常に見られている。聞こえているという意識が必要です。
あとは、アクションはオーバー気味に、ということですね。そうでないと、オンラインではなかなか映えない。小さな画面で見ている人もいますので。
講演主催者側には、聴講者が求めていること、講演者に求めることをはっきり定めることを意識してほしいです。また、オンライン講演に参加するための注意事項、講演を盛り上げるための工夫も聴講者と共有してほしい。
例えば、カメラの映像はできるだけオンにしておくと、一人でしゃべっている講演者にはありがたいものです。マイクはしっかりミュートして、雑音が聞こえないようにする。こうしたアナウンスをしっかりしておくだけで、講演はまるで変わります。
また、オンラインはトラブルが起きるのが当たり前ですから、何か起きたときの連絡方法を確保しておく。音がきこえにくいときには、チャットに書き込む。つながらなかったときには、このメールアドレスに連絡する。
実際、アプリが落ちてしまうこともあります。そうすると、別アプリの準備が必要になる。いろいろなトラブルを予想して、幅広く対応しておくことが大切になります。
オンラインも可能なおすすめ講師特集もございます。あわせてご活用ください。
――企画:細野潤一/取材・文:上阪徹
松本国一まつもとくにかず
富士通株式会社 シニアエバンジェリスト
1991年富士通株式会社へ入社。コンピュータ・ネットワーク・モバイルの合計16部門43部署においてデジタル全般の業務に従事した経験を活かしシニアエバンジェリストとして各メディアへの出演や年間250回を…
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北野琴奈
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