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飛び込み営業のコツ ~三越伝説のトップ外商・伊吹晶夫~

伊吹晶夫

三越伝説のトップ外商

なぜ飛び込み営業をすることになったか、経緯を教えていただけますか?

私は百貨店にあこがれ入社いたしました。それは、店頭接客販売の中から多くのお得意様を作って売上で先頭を走れる社員を目指そうと密かに考えておりました。しかし入社3ヶ月目に思いもよらぬ仕事を与えられまれました。それは分厚い「お中元パンフレット」数十冊を両手にさげ、決められた地域を一軒一軒訪ねて「お中元は是非手前どもでお願い致します。電話を頂けましたら、私がご註文を頂きに伺います。是非よろしくお願い致します。」

その様なことで、まさにローラー作戦で取りこぼしの無い様に宅訪する仕事でした。何と言っても新入社員、目の前のお宅がどの様な方なのか全く分からずに「インターホン」を鳴らすのは本当に勇気のいる仕事でした。「インターホン」越しに短時間に用件を伝えることも大変むずかしい仕事でした。私の話し方をかわいそうに思われたのか、十軒に一軒位は玄関に入れて頂きました。お客様を目の前にしての会話も「インターホン」とはまた違い、本題のみの会話で味気無いものでした。それから忘れてならないのは、当時は「クールビズ」なんてありません、お客様の訪問はスーツが基本です。体力的な自信はありましたが暑さと雨には程々苦労した記憶は今でも思い出します。

一日の外回りで帰社すると報告書作成です。何十軒訪ね、インターホンで何軒話したか、玄関内で何軒話したか、註文見込みは何軒か、様々な報告でした。困ったのはその後、訪問軒数、受注軒数と評価が一表となり、毎回がく然となりました。それは云うまでも無く、私が受注数、受注金額と最後尾でした。その後、様々な商品の外商をする仕事が次から次に出て来ました。後からのことですが、この外回りの外商で大変多くのことを学びました。最大の収穫は何と言っても「店頭にご来店いただいたお客様のなんと有難いことか。」です。そして、この学びの原点のおかげで700家族3.000名の顧客作りの私の今日が有ると思います。

失敗したことを教えてください

失敗が多すぎて何から話したなら良いか迷います。

恥ずかしかったことで、ある訪問外商していた時のお客様が店頭に訪ねて来ていただきました。「伊吹さん先日はわざわざ自宅までお中元パンフレットを届けて下さり有難う。」しかし、何百軒も回っているので目の前のお客様が全く分からずに大変失礼してしまいました。今思うと、新人の私に少しでも成績になればと思っていただいたのではないでしょうか。商人・セールスの方々は一度しかお会いしてない方でも常に瞬時にお客様の様々な情報をインプットすることを通常として行かないと、せっかく再度お会いする機会をいただいた事がかえって残念な事となってしまうこともあることを忘れてはならない。常に五感を働かせ「名前」「情報」で整理していくことを教えられました。お名前をお呼びするとお客様が喜ばれるので、いつしか「お名前覚え」の習慣が付いて来たのだと思います。この訓練のおかげで電話の「伊吹さん・・」の一言で今でも1.000名ぐらいのお客様のお顔が浮かびます。

電話註文の失敗。ある私が開拓した寺院の奥様から電話で「○○日お寺で僧侶の会合が有りお土産をお願いしたい。」との註文でした。店頭に常に販売している商品でしたので会合の前日に持参お届けに伺いました。大変恥ずかしことに、それは来月の○○日使用するお土産でした。私の電話の聞き間違いでした。大事には至らなかったが、お客様に「チェックが甘い人」と思われたことは事実だと思います。その事で学んだことは「ご註文事項を再度確認する事。」また「お届け前に確認に連絡を先方へ入れる事。」これはお客様のお宅訪問や会社での面会など、前日連絡し確認することでした。

これは金額で最大の失敗です。ある宗教団体でお祝いがあり特別註文の弁当を受注。5.000円×3.000個。和洋中の特別な弁当で何度も修正してお客様に最終でご納得いただいて当日を迎えました。納品に立会い無事に全てを配り終えました。その日の夕方電話があり、「弁当の中味で硬くて食べられない胡麻の中華饅頭がある」と連絡があり、すぐに先方へ伺い中身を確認致しました。それは歯が立たない程のまるでゴルフボールでした。職人さんを呼び原因はすぐにわかりました。それは中華饅頭は上新粉を練りあんこを真ん中に入れ油で揚げてから自然に冷ますことがポイントで、今回は個数が多いので少しのあいだ冷蔵庫で冷やした事が判明致しました。お客様から「伊吹さんは弁当は試食いたしましたか?」との質問に、なぜ納品時にチェックとして試食しなかったのか、自分自身を悔やみました。何よりも信頼いただいたお客様のお祝いにこの様なご迷惑をおかけしてしまいました。社を上げて取締役もお詫びに行っていただき「会社としてこの様な商品は不良品をお渡ししてしまいお代金はいただく事は出来ません。」と先方様に話しました。しかし、しばらくしてから思いもよらず全額が入金になってしまいました。取締役と同行して先方の代表と面会し「代金は返金をさせていただきます。」と話しました。そこで代表からお言葉をいただきました。「今まで多くの出入り業者さんにいろいろお手伝いをいただき、信者様への引き出物などを買わせていただいております。特に伊吹さんはいつも私達の勝手な難しい要望をしっかり聞いていただき、様々な提案をしていただきました。本当に衣食住全般にわたりお手伝いいただきました。それが今回の一回の事で出入りいただけ無くなると私共も困ります。どうぞ代金はそのままでお願いいたします。」お言葉に涙してしまいました。私はその後、本当に様々なご用命に最新の注意を払うようになりました。今もお客様の秘書役をさせていただいおります。 失敗を重ねると信頼も失いますが多くを学びます。しかし、失敗を恐れずにお客様のご用命に答えていくのが使命ではないでしょうか。

飛び込み営業のコツを教えてください

一言で云うと「コツ」なんてありません。私の顧客作りの原点での昭和40年台から60年台の本当の飛び込み営業は、今現在は大変難しいと思います。

まず住宅環境の変化です。特に集合住宅化で個別訪問が困難になって来ております。地方などはまだ成果を期待の出来る所もあるとは思いますが、様々に営業手法も変化してきています、自動車販売のお宅訪問が「朝がけ夜がけ」の時代なども終りました。販売する商品にもよりますが、先方の何らかの情報を持ってお伺いする様になって来ているのではと思います。DM情報からの回答をいただいた方とか、お客様からのご紹介や、自分自身のある集まりの情報交換の場からとかいろいろですね。「飛び込み」イコール「初めてのプレゼン」と云うことが多いのではないでしょうか。その際の些細なシーンから様々な情報収集により、何をおすすめしたならお役にたてるか?を探り出す力を鍛えることが大切ではありませんか。

感度を高める事は、何事にも興味を持つことではないでしょうか。例えば、お宅に伺えば必然的にお部屋のインテリアの趣味であったり、お出しいただい紅茶のお話であったり、また絵画が掛かっていればますますお話題は膨らみます。今のシチュエーションからどの様な先方が喜ぶ話題作りができるか、トレーニングする事がとても大切に思います。最近、私が親しくしている営業マンに感じるものは「品の良いお世辞」が少々足りないのではと思います。それは現在、相手へ情報を送るのはスマホなどが多く、短い文章のやり取りが多いので、目の前のお客様にストーリーを作ってほめる「お世辞」の訓練は顧客作りに大切な要素だと思います

前記いたしました「何がお役にたてるか?を探り出す力」と「お客様が喜ぶ話題づくり」「品の良いお世辞」を心がけることが「コツ」ではないでしょうか。

現在飛び込み営業をしている人に向けて一言お願いします

上の「飛び込み営業のコツ」で記しましたが、現在の「飛び込み営業」は変化していると思います。

私は現役時代には何度となく、この仕事の選択は間違いでは?と悩みました。営業で良いところまで商談は行くのですが、最後の押しが甘かったのか中々成績が上がりませんでした。しかしどの様な場合も「押し売り」は禁物です実は私は顧客が少ない時、どうしても「押し売り」が強く出てしまい優良な顧客を多数失いました。これを教訓に最後に「買う」を決めるのはお客様と心に決めました。その結論は、一時の売上よりもお客様の関係継続が大事ということを思い知らされました。

強くおすすめしなくなると云うことは、常に「お客様本位」と云うことです。その関係作りのおかげでお客様とのアポイントなどもとても取りやすくなりました。そして、普段のさりげない「気配りのキャッチボール」の大切を知りました。「球」は手紙、電話、メールなどいろいろです。気配り10球投げて売上が帰って来る場合もあれば50球して帰って来る場合と様々です。大切な事は「いつも気にかけております。」を形にして下さい。私の最近の気配り電話は「TVで震度4と云う事、大丈夫でしたか?」です。

この頃「営業販売はロマンでは・・・」と思うようになりました。それは人の出会いの不思議から、様々な商品が生まれるには原料調達から始まり、また多くの方々の知恵と技術を集めて目の前の商品が出来上がってきているのだとより強く感じる様になりました。それを少しでも我々営業がプロ意識を持ち「言葉のおまけ」をつけて販売するのが「販売職人」ではありませんか。販売技術研鑽は、日々の接客の中でのみ答えがあるのではないでしょうか。

ある著名な僧侶のお説教に一節に「人の出会いに偶然はない、全て必然」と解かれておられます。どうぞ「お会いするお客様は会うべくしてお会いしていること」を忘れずに商いに励んでください。お客様は貴方様を待っているのではありませんか?

いつも平常心は健康管理から。

伊吹晶夫

伊吹晶夫

伊吹晶夫いぶきあきお

三越伝説のトップ外商

百貨店「三越」伝説のトップセールス外商。 31歳の時に、社員1万3000人の中で初めて売り上げNo.1の座に就き、42歳以降は2位と圧倒的な差を付け、常にトップセールスを誇る。45歳には、最年少で紳…

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