目次
人生最大の危機を教えてください。
旭山動物園が廃園に直面した。
その時の状況や危機が発生した原因を教えてください。
設立当時から、地方の小都市で動物園を維持できるかどうかの議論があった。
開園当初は、日本でもっとも北にある動物園として道北一帯からの集客が認められていた。その後、入園者数の減少が顕著になり、動物園設立時にもなされた収支に焦点を当てた議論が再燃していった。そして、「自治体経営とはいえ、地方の小都市である旭川では、動物園を維持していく財政規模ではない。」との考えが優勢となっていった。
動物園としては、収支改善を目指してジェットコースターなどの大型遊具を導入し、入園者の確保を目指したが、効果は一時的で入園者数の減少に歯止めは掛けられなかった。
危機とどのように向き合い、乗り越えたのですか?
動物園の社会的役割を考え、そのうちで飼育係のできること、飼育係にしかできないことを明確にして、全員で取り組んだ。その中で、もっとも重要なことは職員の意識改革であった。動物を健康に飼育し繁殖させることが役割と教育され、その道のプロとしての修行を積んできた飼育係に、何のために飼育するのかを考えさせた。動物を見せるために飼育しているということ、動物たちの魅力的な姿を見て頂き、多くの人に動物たちの味方になってもらうことが最終の目的であることを意識させた。そのために、市の機構改革に合わせて、飼育係を飼育展示係へと名称を変更した。
伝えることの一環として、自分の担当する動物を解説する「ワンポイントガイド」を行い、そのガイドの中から動物の特徴的な行動を展示する「行動展示」の芽が生まれてきた。一方で、動物たちにとっても、飼育係にとっても、お客さんにとっても理想的な動物園構想をとりまとめていった。長いこと誰にも認められなかったが、新市長が登場して、私を園長に指名したことで、動物園構想もようやく陽の目を見ることとなった。その後は、行動展示型の動物園へと再生され、地方の小さな動物園が年間300万人以上の入園者数を記録することとなった。
最大の危機に直面したご経験から、どのようなことが得られましたか?
原点にもどること・・・社会的使命を明確にする
使命を達成するために運営理念を明確にすること
理念を実現するための活動方針を立てて、全員で取り組むこと
努力をし続ければ必ず叶うなどとは思えないが、努力なしで何事かが成し遂げられることは絶対にない。努力は、目標達成に限りなく近づけてくれるが、それを掴めるかどうかは“運”である。
実は、自分がこのことを学んだのは北大柔道部主将としての1年間であった。結局は決勝戦で敗れて2位に終わったが、この1年間の努力は、自分に大きな宝物をくれた。それは、「努力は成果を保証しないが手の届くところまでは連れて行ってくれる」ということだった。だから、動物園でも最後の最後まで信じた道をがむしゃらに突き進むことができたのだと思う。
最後に、人生の危機に直面している人へ向けてアドバイスをお願いします。
とにかく、一度原点に戻って考えて欲しい。
進むべき道が見えて、そこに自分を埋め込んで、たとえそのまま朽ち果てようとも悔いは無いという覚悟ができたら、あとは途中でぶれることなく我が道を行く。そうすれば、自分自身を納得させることができると思う。
右か左かを迷ったら、とにかく徹底的に考えて結論を出すこと。そのときに最良の事態と最悪の事態を想定しておくこと。事態は絶対にそれらの間で推移する。特に最悪の結果を予想しておくことが重要。
ダメだったからといって絶対に後戻りしてはならない。その時に出した結論は自分にとって正しかったのだから。「引き返すより、次の展開を考える方が楽だ」と思えるほどに、徹底的に考えて結論を出す癖をつけておくことが肝要だと思う。
小菅正夫こすげまさお
旭川市旭山動物園 前園長
1948年、北海道札幌市出身。1973年、北海道大学獣医学部卒業後、獣医師・飼育係として旭川市旭山動物園に就職すると、飼育係長、副園長などを歴任し、1995年には園長に就任する。 就任当初、当時入…
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