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少子高齢化や人口減少が進み、2040年には全国1800市区町村の半分の存続が難しくなるといった(「日本創生会議」人口減少問題検討分科会発表2014年)衝撃的な予測がされた日本。
持続可能な社会を築くためには、地域に人が集まらなければなりません。地域に人が集まるためには、「仕事」がなくてはなりません。そして、そこに住む人々が健康でなければ、働くこともできず、社会保障費が財政を圧迫します。
では、どのような取り組みを行っていけばよいのでしょうか?
今回、元よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役で、「あなたの街に住みますプロジェクト」を推進する中、自身も「東北担当住みます専務」となり宮城県、福島県に移住するなど地域の活性化や地域発信を目的としたプロジェクトに取り組んだ竹中功氏に、持続可能な社会をつくるためのヒントをお伺いしました。
ローカリズムに注目。その土地に住まうことによって、その土地の人たちに寄り添う
ーー2011年に「47都道府県エリアプロジェクト(あなたの街に“住みます”プロジェクト)」がスタートし、「東北住みます専務」として、仙台市や会津若松市にしばらくの間住んでいらっしゃったご経験をもつ竹中さんですが、吉本興業はなぜ、企業としてこのプロジェクトに取り組んだのでしょうか?また、「あなたの街に住みますプロジェクト」とはどのようなプロジェクトなのでしょうか?
政治や経済の世界のみならず、メディアやエンタメの世界までもが東京に一極集中する中、吉本興業は、芸人だけではなくスタッフも含め、新しい才能を求め、それを開花させる場面(マーケット)を全国の街々に求めました。「エンタメ」の世界もグローバル化が進む中、吉本興業は、ローカリズムに注目したのが始まりです。
所属芸人が約6千人。出身地も全国47都道府県にまたがっていることもあり、「地」や「血」の縁を辿り、裏方である芸人のマネージャーも一緒になって、47都道府県に散らばって活動。その土地の人に笑いを提供することで、人々に笑顔や笑い声に出会っていただき、また、ビジネス面では、その土地のメディア、スポンサーのお役に立とうと言う目論見で、その土地に実際に住んで芸能活動を行う。それが、「あなたの街に住みますプロジェクト」です。
「あなたの街に住みますプロジェクト」では、生の「お笑い」を届けることにより、新たな「お笑いファン」を生みだすだけではなく、「お笑い芸人になってみよう」という「芸人志願者」に出会える機会までも生み出しました。
インターネットが発達していく中で、吉本興業が選んだ道の一つが、芸人を東京や大阪などの中央から地方に派遣するのではなく、その土地に住まうことによって文化や歴史、食や言葉などを知ることにより、その土地の人たちに寄り添う、ローカリズムでした。
ローカルからグローバルにまで広がった住みますプロジェクト
ーー「あなたの街に住みますプロジェクト」では、具体的にどのような活動をされたのですか?また、そのプロジェクトを通じ、企業、地域に、どのような活動の広がりがありましたか?
ローカルに根づいた活動の結果、ローカルのテレビ局やラジオ番組のレギュラーに
「住みます芸人」によるお笑いライブや落語会を開く。地元の放送局や新聞社、地元雑誌社などを訪問。スポンサーになっていただけそうな企業や行政の担当者を訪問。ボランティア活動など、地元の祭りやイベントには積極的に参加。中でも、私は東北担当だったので、東北6県の「住みます芸人」を一箇所に集めて「みちのくワン(M1)グランランプリ」というお笑いイベントも年に2回ほど各県の担当者持ち回りで開催しました。
「住みます社員」にはマネージャー業だけではなく、会場の手配や前売り券の販売やその宣伝、舞台の進行、入場者への対応なども現場で学んでもらいました。
そういった活動の結果、「住みます芸人」がローカルのテレビ局やラジオ番組のレギュラーを手に入れたり、地元企業のコマーシャルに使ってもらえたり。
また、東京や大阪の芸人がその地にやってきた時には、一緒に仕事をするだけではなく、夜には地元の美味い食事処などを案内し、先輩とのコミュニケーションを深め、アドバイスを貰ったり、親交を深めたりもしました。
その後、このコンセプトでアジア各地にも「住みますアジア芸人」が誕生していくこととなります。
ビジネス、友情も生まれ、アジア各地に広がった「住みますアジア芸人」ーー土台はローカリズム
ーープロジェクトを通じ、企業、地域に、どのような活動の広がりがありましたか?
直接対話という形で多くの人に出会い、ビジネスも生まれ、友情も生まれました。
2014年には吉本興業に加えて、電通、ドワンゴ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、滋慶学園、イオンモール、スペースシャワーネットワーク、アミューズ等と共に、クールジャパン機構とアライアンスを組み、「MCIPホールディングス」と言う会社が設立されました。
設立の目的は、日本のコンテンツをアジア各地(タイ、台湾、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピン、ミャンマーなど)に輸出することでしたが、各地で新しいコンテンツ作りにも動き出す活動も始めました。またその逆にアジア各地のコンテンツを日本に招聘する活動も支援するなど、様々な活動へと広がりをみせました。
これも土台になっているのは「住みますアジア芸人」の存在で、「47都道府県住みます芸人」と同様に「お笑い」を通して現地の人たちに寄り添い、地元メディア、地元クリエイターやエンタテイナーに出会い、交流を進めています。
「住みますアジア芸人」プロジェクトも、日本国内で行ってきたことと同様で、その地に住むことで文化を知り、歴史を知り、人に会うことで人を知り、「事おこし」を行うローカリズムが軸となっています。
笑いや時間、縁など何かを共有することで居所をつくることができる
ーー反対に企業としてこの事業を推進していくにあたり、ご苦労や、地域になじむためにご尽力なさったことはありましたか?
お笑いが受けるか受けないかは、ユーザーの背景にある文化的な側面の理解がキーとなります。その文化とは地域性に基づくものが殆どなので、最初は受け入れてもらいにくかった事も多かったのですが、生の「お笑い」を作ることと、それに触れてもらうことで、徐々に笑いを共有するという空気感の中で、「お笑い」の居所が出来るようになっていきました。
そういう意味でも、自分がその町の出身者であったり、両親のどちらかがその町の出身だったりなどの「縁」がとても役立ちました。
また、私が担当した東北ではまだまだ「関西弁」に馴染みが少ないということで、当初は、遠慮がちだった会話も地元の美味い日本酒を交わせば一気に人間関係が深まるなどの経験も多々ありました。もう死語ですが、「飲みニケーション」っていうやつは今も大事だと言えます。
IoTやAIが進めば進むほど、「人間力」を発揮する場面は、「直接対話」に
ーー現在、政府は、SDGsを推進するために様々な取り組みを行っています。その中で、地域活性化や健康・長寿の達成も推進しています。「47都道府県エリアプロジェクト(あなたの街に“住みます”プロジェクト)」はこれらの目標達成のためのヒントとなる部分が多数あると思います。このプロジェクトを通じ、地域を活性化するヒントがありましたら教えていただけますでしょうか?
「コミュニケーション」という視点で言うならば当たり前ですが、国内外問わず「直接対話」が重要であり、 IoTやAIが進めば進むほど、「人間力」を発揮する場面は、「直接対話」に特徴を求めようということになります。これを吉本式に置き換えると、「生のお笑いを提供」するということです。
また、「お笑いで健康に」とは良く言われています。
ガン細胞やウイルスなど体に悪影響を及ぼす物質を退治しているのが「ナチュラルキラー(NK)細胞」と言われ、医師の研究によると、人間が笑うと、免疫のコントロール機能をつかさどっている間脳に興奮が伝わり、「神経ペプチド」が活発に生産されNK細胞を活性化。その結果、ガン細胞やウイルスなどの病気の元を攻撃し、免疫力が高まるそうです。ということでしっかり笑えば、ガンやウイルスに対する抵抗力が高まり、免疫異常の改善にも繋がります。そういう意味で重要な役割を担えるのが「お笑い芸人」だと言えます。
Don’t think. FEEL!ーー「共感力」が必要
ーー最後に、竹中さんは、持続可能な社会を目指すためには、どんなことが必要だと思いますか?
IoT、AI化が加速度を増して行く中、「数年後にはなくなる職業」などがよく雑誌やテレビ番組で話題になりますが、芸術や美術、話術などの「術遣い」の仕事は簡単にはコンピュータ類には取って代われないと言えるでしょう。
なぜなら、作業の効率化のためのアシストは出来たとして、「クリエイティビティ」は「人間力」そのものだと言えるからです。また、芸術芸能を楽しむ力は提供する人物の持つ「感性」とそれを受ける消費者との「共感力」の交換とも言えるからです。
そういった「感性」を鋭くするためには、ブルース・リー主演、映画「燃えよドラゴン!」の中の名セリフ「Don’t think. FEEL!」を思い浮かべてください。「感じる」ことは決して「考える」ことと比べて格下ではないと言えます。
普段、絶え間なく物事を考えると言う行為は行っているでしょうが、実は相手が何を感じているか、自分は何を感じているのかを感じ取っていないと「共感」はしにくいと言えます。
そういった「よいコミュニケーション」の上に立った「共感力」が、人間関係のよい持続を可能にしてくれると言えます。
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竹中功たけなかいさお
株式会社モダン・ボーイズCOO
1959年大阪市生まれ。 同志社大学法学部法律学科卒業、同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。 吉本興業株式会社入社後、宣伝広報室を設立し、月刊誌『マンスリーよしもと』初代編集長を務める…
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