今週、久しぶりに初心にかえった。翻訳書の企画を出版社に持ち込んだのだ。ここのところ、先方からの依頼だったり、たまたま本を書く話が舞い込んできたのであまり苦労していなかったのだが、今回自分で翻訳をしてみたい本を入手したので、久々にその企画書を片手に出版社を探すことにした。
1.世の中そんなに甘くない
まずはじめに、お付き合いのある出版社さんに話を持ちかけてみた。正直、自分の中で少し甘えがあった。いままでの付き合いのあるところだったらなんとかなるのではないかと…。
だが、そうは問屋が卸さない。
まず1社目の担当者に会って、本の内容を説明するも「…う~ん。でもこれといって目新しい切り口じゃないですよねぇ」という返事。どうやら難しいようだ。続いてもう1件の出版社を訪れてみる。こちらはというと「そうですねぇ。やる気になればそれなりに作れるとは思うんですけど、そのエネルギーがいまはちょっと…」と煮え切らない返事。
この2社のやんわりとした断りを受けて、僕は一発奮起した。
「そうだ、初心にかえろう!はじめは何の実績もなく、コネもないところからスタートしたんだ。またそこからはじめよう」と。そう思うと、あのメラメラとしたガッツが再び湧いてきた。そこでいままで付き合いのない、新規出版社を開拓することにした。
2.売り込み現場よりナマ中継!
皆さんの中には「でも、もう何冊もやっているから楽勝でしょ」と思われる人もいるかも知れない。ところが世の中そんなに甘くない。翻訳者なんてゴマンといる世の中、自分の実績などたかが5、6冊だ。その僕が出版社にアプローチするとこうなる。
(以下、電話の会話を再現)
(川村)「あの、川村と申しますが、訳してみたい本があるのですが…」
(S社)「あーファクスを送ってもらうのは自由ですが、何も返答がないときはボツだと思っといてください」
(川村)「わかりましたー」(こりゃ、まず無理だなぁ)
次にK社に電話をする。
(K社)「あのーどうして私どもにお声をかけていただいたのでしょうか…」
(川村)「はい、最近御社の○○という本が売れていたようなので…」
(としゃべりながら、アレっ、あの本ってここじゃなかったかなーと気づく。)
案の定「あの本は××出版さんですね」と冷ややかに言われる。明らかに調査不足。玉砕だ(皆さんも営業の電話をするときには、こんなミスをしないように気をつけよう)。
次はD社だ。電話をすると、
(D社)「あ、すいません。いますぐ出るところなんで、とりあえずファクス送っておいてください」(かなりバタバタしている様子)
そういえば来週からフランクフルトでブックフェアがあり、いま編集者はその準備に追われている時期だった。「ちょっと時期が悪かったなあ」と反省しながらファクスを送る。
次は6社目のA社。こちらは昨年、タブーなテーマにもかかわらず、装丁を工夫して売れたセンスのいい出版社だ。
(川村)「こんな内容なんですが、いかがでしょうか…」
(A社)「なるほどー。いいかもしれませんねぇ」
(川村)(ん?なかなかきちんと話を聞いてくれるなあ。ひょっとしたらいけるかな?)
好感触を得ながらファクスを送る。
いまでも僕はこんなもの。はじめてのところへのアプローチは、駆け出しの人となんら変わりがない(笑)。
3.空けてビックリ玉手箱
さあ、週が明けての月曜日夕方5時。事務所の電話が鳴った。さて皆さん、どこからでしょう?
「もしもし、K社の○○ですが…」
なんと、大手K社の女性担当者からだ!あまり気がなさそうだったので、期待していなかった出版社だ。
「あれ、おもしろそうですので、会議にかけてみます…」
「そうですか、ありがとうございます」と冷静を装いつつ電話を切る僕。しかしその瞬間、心の中では「ヤッター!これはいけるかも」と飛び跳ねて乱舞した。
この瞬間が、僕は最高に、サイコーにうれしい。海のものとも山のものともわからぬ1冊の本。それを自分が見つけ出し、そこに「売れる」という価値をつけていく。そしてコネもなにもない中、正面からのガチンコ勝負でぶつかっていく。それを「おもしろそう」と認めてくれる人がいる。これはもう生きていて最高の喜びだ。これを一度味わってしまうとやめられない。
4.人やタイミングを変えれば、必ずチャンスはある
僕はまだ決して著名な翻訳家でもない。いまでも初めての出版社に電話をすれば門前払いを食い、そっけなく扱われる。今回も「やっぱりコネがないとなぁ」とか「時期が悪かったかなぁ」と最初は思った。しかし、そこで立ち止まったら負けだ。
人はみな、目の前の障害をすべてに当てはめて考えがちだ。2、3うまくいかないだけで「やっぱり難しい」「時期が悪い」と自分で勝手に決めてしまい、「すべてがうまくいかない」のだと思ってしまう。
しかしそれは違う。たまたま自分がめくったカードがNOだっただけで、必ずYESが隠れているのだ。その場に直面したとき、あと一歩の粘りが人生を分けるのだ。僕はいつも売り込みに行き詰ったら、相手を変える。タイミングを変える。そうすれば必ずいい反応があらわれる。この「粘る」人だけに人生至福の喜びが待っている。
<今月のレッスン:相手とタイミングを変えれば、NOがYESになるものだ。>
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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