東アジアの経済が成長する中で、日本経済が盛り返す大きな転換期を迎えているように思えます。今回は東アジアとのかかわりの中で日本経済の展望について述べます。なお、東アジアの範囲でありますが、本稿では北東アジアと東南アジアの両方を含む地域で、具体的には北はモンゴルから南はインドネシアあたりまでの地域を考えます。
近年の日本経済
1980年の中頃の日本経済は絶好調で、日本製の自動車や電機製品が世界で大いに売れていました。当時の日本経済の強さを象徴するように、『Japan as Number One』という本が米国で出版されました。当時、日本の国民一人当たりのGDPは米国より高い数値を示していました。
振り返ってみますと、1988年頃が日本経済の絶頂期であったように感じます。当時ある素材メーカーの方より、「今わが社は大変儲けていますが、なぜそんなに儲けることができるのか分かりません」という話を聞いたことがあります。素材メーカーは最終製品を作りませんが、当時、自動車、機械から日用品に至るまで、日本の製品がアジアも含め世界に大変売れていた時代でした。
1980年代に好調であった日本経済も、1990年代の前半から後退し始め、1990年代の中頃から景気が大きく低迷します。それ以降日本経済は長引く不況に喘ぐことになります。バブル景気と呼ばれた1980年代のような好景気は、もう二度と日本経済には訪れないでしょう。
1980年代、1990年代を振り返る
1980年代は世界の途上国の生活が豊かになり始めた頃で、日本製の様々な消費財が売れました。特に日本とは経済的な結びつきの大きい東アジアの消費が伸びました。
消費財が売れますと続いて生産財も良く売れます。日用雑貨から生産機械に至るまでよく売れ、日本経済はまさにバブル景気を謳歌しました。
しかし、東アジアの途上国も様々な商品を生産して国内に供給するとともに輸出も行うようになります。こうなりますと、日本の製品が途上国に売れなくなり、さらり途上国から輸出される製品と日本製の製品が競争となります。人件費はじめ生産コストの高い日本の製品は海外市場で次々と競争に負けていくことになります。こうして1990年前半に日本経済は低迷していきました。
現在、日本をはじめ先進国の経済成長率は2%台ですが、新興国の経済成長率は7%程度の高水準にあります。当面は、世界経済は新興国の頑張りに依存していくことになるでしょう。
日本経済と東アジア
地理的な関係やこれまでの歴史的な関係から、日本と東アジアの国々の経済的な結びつきは大きなものです。国が経済的に発展しますと、国民の生活は豊かになっていきます。東アジアの国々で富裕層が増えるにつれて、高価であっても優れた品を購入するようになります。これからは、これまで高くて売れなかった日本製製品が売れ出すことになるでしょう。
最近、海外から日本を訪れる旅行者が著しく増えています。これは、東アジアの国々の発展で海外旅行を行う経済的余裕が増加しているためと考えられます。
さて、世界においてドイツ車、日本車はそれぞれ高い評価を得ています。様々な分野の商品がありますが、東アジアにおいて高級品は日本製、中級品は何々国製、それ以外の製品は何々国製というように、日本製に対する評価、位置付けが定着することが重要です。そうなりますと、高級志向が高まるにつれて日本製の製品がよく売れることになります。
バッグ等の高級品としてフランスやイタリアのブランドが有名ですが、一度ブランドが定着しますと、他の製品はなかなか太刀打ちできません。東アジアの総人口は23億人を超えます。化粧品や衣料から、電気製品や自動車に至るまで、高級品は日本製品という位置付けを得る絶好の機会です。そうなれば、一度廃れた衣料品や家庭電器製品の国内での製造が復活することになるでしょう。雇用が増え、消費が増え、輸出も増え、日本経済も好況期を迎えることになるでしょう。
東アジアと日本の文化的つながり
北東アジアでは漢字を使う国が多く、また儒教的教えが広く浸透しています。東南アジアにおいても、各国の経済に大きな影響力を持つ華僑においては、やはり漢字を理解し、かつ儒教的教えを大切にしています。経済という側面から東アジアを見てみますと、日本も含め文化的、思想的な面で共有する部分が多いと思います。日本にとって有利なこのような背景を強みとして、東アジアにおいて日本製の製品が一層売れていくことを期待致します。
相当の努力が必要、農産物を例に
現在日本政府は日本の農産物の海外への輸出促進を強力に後押ししています。ただ、競争の激しい国際社会において、新たな市場を獲得することは容易ではありません。
日本の農産物の売り込みのために、東アジアの主要都市で生産地域の県が主導して物産展が開催されています。しかし、このような物産展はあまり成功しないように思えます。
理由としましては、
1.県単位での売り込みでは、あまりにも規模が小さ過ぎます。農産物を扱う世界の大企業との競争になれば厳しい結果となるでしょう。
2.県単位での売り込みでは、県もしくは狭い地域をブランドとした売り込みとなります。これではあまりにも小さいブランドとなり、世界ではなかなか通用しないでしょう。小さい規模のブランドで売り込むのではなく、企業名で信用と評判を得て売り込むという戦略でなければ国際社会で勝ち残ることは容易ではないでしょう。
3.たとえば、わが県ではこのような美味しい果物がありますという感じで売り込んでも、あまりよく売れないことでしょう。国々にはそれぞれ異なる気候や風土、食文化があります。どのような果物が良く売れるかを事前に調査・研究して、そのような果物を生産して輸出するような積極的な取り組みが必要です。これこそが真のビジネスです。ぬるま湯に浸かっていてはだめです。
東アジアの経済の成長が、日本製品の特長を再度活かして、日本経済を活性化させる良い機会に日本が直面しています。この機会を逃すと、将来もう大きなチャンスは訪れないでしょう。
このチャンスを活かすためには日本の企業は相当腰を据えて取り組んで頂きたいものと思います。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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