先日、「直観でわかる数学」の著者、畑村洋太郎先生の講演を聞きました。先生は「最近、世の中で人災による大事故が起きるのは、人が自分の直感を使わなくなったせいだ」とおっしゃっていましたが、僕もまったく同感です。計算は電卓で、単語は電子辞書で、わからないことはインターネットで。便利な時代になりました。しかし、その反面、まずは自分の頭で考えるという人が減っているようです。
僕には苦い思い出がひとつあります。大きな企業を辞めて、社長一人社員一人の旅行企画会社にお世話になっていた頃の話です。そのとき、私はそれなりに真面目にやっていました。そして「言われたことはきちんとやろう」と思っていました。(これが実はクセモノなのですが…)
仕事のひとつに、社長が手書きで書いた請求書をワープロ打ちする作業がありました。ある海外視察旅行プロジェクトについての請求書です。航空運賃、ホテル代、バス代、現地通訳代、食事代…いくつもの項目があり、それをワープロで清書するのです。私はいつも、できるだけ早く打って「できました」とすぐにつき返していました。
しかし、あるとき、その項目のひとつが間違っていたのです。もちろん、私は書かれたとおり打ったのですから自分には非がありません。確かバス代が通常の倍くらいだったと思います。そのとき、社長にこう言われました。
「川村君は言われたことはきちんとやるけど、この数字の意味とか、このプロジェクトのこととかは考えていないよね」
「はあ…」(もちろん。だってそれ以上考える責任はないでしょ…)←(内なる声)
「確かに、数字の責任は僕にある。しかし、もしこの数字ひとつひとつの意味を考えていたら、”あれっ、このバス代って、この日程にしてはちょっと多いんじゃない”って気づくんじゃないか?ただ言われたことをやってるんじゃ、そこまでは頭が働かないだろうね」
そのときは「ふん、そこまで求められても困るよ…」と正直思っていたのですが、いま、自分で独立して仕事をするようになって、社長の言っていたことが痛いほどよくわかるのです。(ああ、僕も少しは成長したなあ)
確かに、自分はそこまでの責任はないかもしれない。でも、そこまで考えをめぐらせれば「この日程で、この人数だとしたら、ちょっとバス代高くないかなあ」との見当はついたはずです。そして、頭の中でざっくり暗算が始まるわけです。「仮に一人100ドルとしたら20人だから2000ドルだよな…この数字は4000ドルか…あれ、そんな高いの?」というふうに。
冒頭でご紹介した畑村先生もこう言っておられました。「数学なんてのは、だいたいでいいんです。そりゃ、ゼロがひとつ少なかったら大問題ですが、日常の生活じゃ、多少の誤差ならなんとかなりますから」(数学の先生がこうおっしゃるのですから)(笑)。
そうなんですよね。別に物事を判断するとき、ぴったりの正確な数字なんて必要ない。たとえば「二人で温泉いくのにどれくらいかかるのかあ?新幹線で往復3万、ちょっといい宿で一泊2万、それで食事やなんやらで一人あたり6万もあればいいかなあ」って計算をするでしょう?要はざっくりどの程度なのかという計算ができるかどうかなのです。
「言われたことをきちんとこなそう」「マニュアル通りに仕事をしよう」とだけ思っていると、こうした思いつきもでてきません。請求書を作ること自体が目的になってしまって、その中身やプロジェクトの意味、数字の妥当性など考えることもない。(残念なことに、ほとんどの人がそんな余裕などないのかもしれませんが…)。
皆さんはいかがでしょうか。
言われた事をこなすことだけにはまり込まないで、ぜひこれっておかしいんじゃない?という目を持ってください。「常識的に考えると」「もし自分だったら」という目をもってみると、きっと新しい発見があるはずです。
いま、あらゆる詐欺が横行しているのも、直観で考えられる人が減っているからに思えてなりません。先日夜逃げした英語学校の誘い文句は「授業料を100万預けて、終わったら90万返す」でした。また「水戸黄門の末裔が健康ランドにいる」と言われて信じてしまったおばさん、「自衛隊の息子が、戦車を門にぶつけたからお金がいる」っていう話。どれもこれも「これっておかしいんじゃない?」
<今月のレッスン:「これっておかしいんじゃない?」という目を持とう>
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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