エネルギー資源の極めて乏しい日本にとっては、原油価格の動向が経済活動や国民生活に大きな影響を与えます。今回は原油価格の動向についてふれてみます。
最近の原油価格の動向
原油価格はいろいろの数値が取り扱われますが、特にWTIといわれる原油の価格が広く採用されています。WTIはWest Texas Intermediateのことです。WTI原油はニューヨークで取引されていますので、NY原油とも表記されます。
原油価格にはWTIのほか、ドバイ、北海ブレント、OPECバスケットなどがあります。WTIは米国産原油で、南米産原油などの価格指標であるのに対して、ドバイはUAE産の原油で主に中東産原油の価格指標、北海ブレントは北海産原油でアフリカや地中海原油などの価格指標、OPECバスケットはOPEC諸国の代表的な原油価格を加重平均した値です。これら4つの価格変動の様子はいずれもよく似た推移を示します。
2018年は原油価格がジリジリと上昇し、最高1バレルあたり74ドルを超えました。それに合わせてガソリン価格も上昇しましたので、原油価格の上昇を実感されたことと思います。
図は1984年1月から2019年9月までの原油価格の推移を示したものです。2019年10月にこの原稿を書く時点では1バレル56ドル程度になっています。なお、バレルとは本来は樽を表す語ですが、1バレルは159リットルの量です。
原油価格の動向を示したグラフは、世界経済や国際政治などの世相も表しています。原油価格の推移を正しく理解することは、今後の原油価格や世界経済の動向を的確に展望することができます。
近年の原油価格の推移
2008年のリーマンショック以前は、2000年の9.11同時多発テロの影響を克服して世界経済は好調な時期で、世界の株価は高騰しました。株価が上がったあと世界のビッグマネーといわれる巨額の投資金が原油に向けられました。その結果2008年のリーマンショックの前には1バレルあたり130ドルを超えるまで暴騰しました。リーマンショックの後に原油価格は暴落しましたが、4年程度で回復して原油価格は100ドル前後の高価格で推移しました。
その後、原油価格は2014年の後期頃から下落します。これは、イラク戦争やジャスミン革命の影響で原油の生産が落ちたイラクやリビヤの油田設備が回復されて、国の復興のために原油の生産が盛んに行われたことや、クリミヤ半島問題で西側諸国より経済制裁を受けているロシアが外貨稼ぎのために原油生産を増やしたことなどが原因としてあげられます。
原油価格が下落しますと、昔はサウジアラビアが減産を行って価格維持を行いましたが、現在ではサウジアラビアにはそのような力はありません。天然ガスなどのエネルギー源が多様化したことや、原油価格の上昇が中東以外の油田の採掘に経済性が得られて生産が進んでいることがあげられます。
その後、2016年初頭には1バレルあたり33ドル程度まで下落しましたが、その後徐々に上昇しました。原油の減産が国際協調で行われた結果です。
原油価格の展望
かつては、世界の原油の半分以上を先進国が消費していました。しかし、1990年代に逆転して、現在では新興国や途上国の消費が半分以上を占めています。1990年代以降は、新興国や途上国の石油の消費が増加して、結果として原油価格は右肩あがりで上昇しています。
今後も先進国の経済成長率はせいぜい2%程度でしょうが、中国等の新興国は6、7%程度の成長率が見込まれます。経済成長率で見ますと、今後は新興国の経済成長が世界経済をリードしていくことになるでしょう。
さて、短期的に見ますと産油国の生産調整が行われたり、原油が投機の対象となったりしますと、原油価格は2011年から2014年頃のように1バレルあたり100ドル前後になる可能性があります。中・長期的には新興国の経済成長に伴い、石油の需要が増加して徐々ではありますが、原油価格は上昇していくことになるでしょう。
エネルギー資源をほとんど持たない日本とっては、石油や電力の値上がりは経済にとって厳しいことになります。空調機を中心に一般機器の高効率化や省エネルギー化が一層進むことになるでしょう。
原油価格とシェールガス
少し前にシェールガスが大変注目されたときがありましたが、最近は全く話題になっておりません。シェールガスは地下深くの頁岩層に存在するメタンガスを採掘することにより得られるエネルギーです。従って採掘コストは60ドル程度になります。原油価格が1バレルあたり60ドル以下では、シェールガスは採掘すればするほど赤字となります。シェールガスの生産が経済性を持つためには、少なくとも原油の価格が1バレルあたり70ドル程度以上になることが必要です。
現在、今後もし原油価格が上昇して1バレルあたり100ドル近くになりますと、またシェールガスが注目されることになるでしょう。エネルギー資源の乏しい日本では、シェールガスの開発に日本企業の投資が活発になることでしょう。
シェールガスは地質学的に堆積盆地に存在することから、シェールガスの推定埋蔵量が多い国は、中国、アルジェリア、アルゼンチン、米国、カナダの順に予測されています。
シェールガスの主成分は天然ガスと同様にメタンです。シェールガスや天然ガスの価格は原油の価格に連動します。北米やヨーロッパでは暖房の需要が多いですが、天然ガスは暖房の他、産業の熱源であるボイラの燃料としても石油と代替性があり、価格は連動します。
エネルギーは国家なり
世界の海運において、重量ベースでその約3分の2は石油や石炭、ガスなどのエネルギーが輸送されています。また、世界の企業の売上に関するランキングは様々出されていますが、最近のあるランキングによれば世界のトップ7社のうち6社は国際石油資本、いわゆるメジャーです。19世紀には「鉄は国家なり」と言われましたが、20世紀、21世紀は「エネルギーは国家なり」と言えましょう。
エネルギー資源の乏しい日本は、安定してエネルギーを確保できるように、今後も政府や企業、国民が相当の努力を払っていくことを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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