デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性や必要性は多くの企業で認識されていると思います。ただ、実際にDXを実施しようとする場合、企業は多くの課題に直面します。今回はDX推進において、IT人材不足や組織体制の課題についてふれてみます。
IT人材不足の問題
DXを進めるにあたって直面する大きな課題の一つが日本におけるIT人材の不足問題です。2030年には約59万人のIT人材が不足するという予測があります。
IT人材の不足によって生じる問題を考えてみます。たとえば、老朽化したシステムの仕様を把握している人材がリタイアすると、そのメンテナンスのスキルを持つ人材が枯渇していきます。こうした中で、先端的な技術を学んだ若い人材をメインフレームを含む老朽化したシステムのメンテナンスに充てようとして、高い能力を活用しきれていない状況が起きています。メンテナンスは先端的な技術を学んだ若い人材にとっては魅力のある業務ではないために、離職してしまったりします。このようにして、会社の中にシステムに精通したIT人材の不足が進行しています。
また、業務プロセスや周辺システムとの関係を明確にして、将来あるべきシステムのビジョンを描くことは、非常に重要です。しかし、このようなことを考えられるプロジェクトマネージャーの人材も不足しています。
日本企業のIT関連予算の80%は現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に割り当てられています。さらに、ラン・ザ・ビジネス予算が90%以上を占める企業も40%を超えています。このような状態では新たな付加価値を生み出すために必要なIT戦略に対して、人材や資金を十分に振り向けられていないという問題が生じています。
今後不足する先端IT人材の調査例
図1は今後不足すると考えられるIT人材を、量および質の2面から調査した結果の例です。現在のIT技術を牽引する情報セキュリティ、クラウドコンピューティング、デジタルビジネスの分野において量、質ともに不足すると見込まれています。さらに、次世代のIT技術をリードするビッグデータ、IoT(物のインターネット)、AI(人工知能)、ロボットの分野においては、特に大幅に不足すると予測されています。
少子高齢化の中で新人の採用が困難な中、IT人材の確保は特に厳しく、人材の問題の対策は喫緊の課題です。IT技術の進化のスピードが速い中で、新たな技術に関する再教育をどうするのか、世の中の変化に伴い新しい人材を如何に確保するか等が困難になっています。
IT人材不足は様々な形で企業のデジタルシステム運営に影響を与えております。IT人材の不足問題の対策には、ユーザ企業はベンダー企業と協調して取り組むことが必要であり、企業発展の鍵です。
事業部門と情報システム部門の課題
情報システム化を推進され競争力向上を果たしてきており、多くのデータ・情報資産を保有していますが、その過程で各事業の個別最適化を優先してきたため、企業全体の最適化が図られないことが多々あります。このような場合、システムが複雑となり、企業全体での情報管理・データ管理が困難となっています。そのため、データ・情報資産を数多く保有しているにも関わらず、連携が難しく活用しきれていないケースがあります。
また、事業部門がオーナーシップを持っていて、プロジェクトに関わる仕組みになっていない場合が多いです。このような場合は事業部門と情報システム部門でコミュニケーションが十分にとられていないケースが多くみかけられます。その結果、開発したシステムが事業部門にとって事業の競争力強化に繋がらないケースになることも多々生じます。
システム投資を行う目的は、システムが開発できたかではなく、ビジネスがうまくいくようになったかどうかで判断されるべきです。事業部門と情報システム部門の意思疎通を良くして、企業のシステムの最適化を図ることが求められます。その対策として全体システムを統合化することも一つの方法です。
ユーザ企業とベンダー企業の新たな関係の構築
IT人材の不足が確実視される今、その課題を克服するためにはユーザ企業とベンダー企業が新しい関係を構築して、スクラムを組んで問題の解決を図る必要があります。
デジタルトランスフォーメーションを実施するためには多くの課題があり、システムや技術面のみならず、人材的な面での課題にも企業は取り組まなければなりません。
ITの世界では常に様々な波が押し寄せています。特に過去の2回の大きな波は、まず企業が大型コンピュータを本格的に使い始めたとき、すなわちコンピュータライゼーションが起きたときが1番目で、次に企業がデジタルシステムを導入し始めたときが2番目です。現在のデジタルトランスフォーメーションは3番目の大きな波と考えることができます。人材不足の視点から考えますと、ITの世界においていかにして人材不足を乗り切るかが3番目の大きな波といえます。
ユーザ企業とベンダー企業が新しい関係の構築が、今直面する3番目の大きな波を乗り越える鍵と思われます。このような観点から企業がデジタルトランスフォーメーションを実施して、新たな企業発展を達成されることを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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