民主党政権は、税金など引き上げなくても無駄を省くだけで17兆円ぐらいの金額はすぐ出てくると言って2009年に政権を取った。それがいかに現実を直視しないマニフェストであったかは自分たちでもすぐにわかったはずなのに、マニフェストについての説明を何もすることなく増税路線をまっしぐらに進んでいるように見える。
もちろん増税をしなくてもすむと考えている国民はほとんどいないだろう。何せ国や地方公共団体の借金総額はGDP(国内総生産)の2倍。欧州の国家債務危機で問題になっているギリシャやイタリア、スペインなどと比べてもはるかに高い。その欧州には、新規の借り入れのコストが上昇し、資金繰りに行き詰まる国の姿がある。そしていまユーロ共通債を出して、財政の弱い国に財政の強い国が事実上の債務保証をする制度にしようという案が出ている。
端的に言ってしまえば、ドイツや北欧などが南欧などの弱い国を助けるということだ。一国の中なら話は分かる。一人当たり県民所得ということで言えば、日本の国内でも相当の格差がある。制度の是非はともかくとして、日本では地方交付税という制度があって、国がプールしたお金を財政が苦しい地方公共団体に回すことができる。
しかしいかに統一通貨ユーロを採用している国といっても、実態はそれぞれ主権をもった国だ。他国が苦しいからと言って、自分たちが融資や富の移転をする義理はない。第一、それを行ったらどの国も真剣に国の債務を減らそうとは思わないだろう。国の債務を減らすということは、増税する一方で、国民に対するサービスを削り、公務員の人件費を削減することだからである(もちろん本来は経済を成長させることで税収が自然に増え、あるいは成長すれば多少のインフレになるから借金の重みが自然に減るということもある。ただ人口が減ってくる日本で、そうした成長戦略を描くこと自体、かなり難しい話だ)。
その意味では増税も仕方がないとはいえ、そうであればマニフェストどおりに行かない理由を改めて説明すべきだと思う。そしてもう一つ大事なことは、2015年までに段階的に消費税を10%にしても、それで現在の社会保障が持続可能ということにはならないという事実だ。
それは単純な話である。現在、国家予算で政策経費は70兆円強、そのうち税収で賄えている分は40兆円ほど。残りは借金で賄っている。消費税を1%引き上げれば国税分で約2兆円だから、5%で10兆円になる。税収が今後それほど増えない(つまり景気はあまりよくならないとすると)、あと20兆円以上の増税が必要だという計算になる。消費税にすれば、さらに10%引き上げて消費税20%にしなければならないということだ。
しかも社会保障はこれからまだどんどん膨らむ。とりわけ団塊の世代全員が65歳以上になる2013年以降は、医療や介護の費用が爆発的に増えてくる可能性がある。その分はいったいどうするのか、そこについての見通しが野田内閣からはまったく聞こえてこない。医療や介護といったサービス、年金の給付、これらを引き下げることなく、持続可能になるとはとうてい思えない。
まさに国民に痛みを強いるこうした政策のビジョンを示さなければ、とても政権党とは言えないのだが、自民党時代と同じように、票を握る既得権益集団(民主党の場合で言えば、まずは労働組合)に弱い。しかし既得権益を打破しなければ改革はできない。小泉首相にしても国民の高い支持率がなければとてもあれだけの剛腕を振るうことはできなかったはずだ。
「支持率に一喜一憂しない」と野田首相は語ったことがある。しかし支持率を上げるということは、国民に向かって説得を続けるということでもある。TPPにしても「参加に向けて関係国と協議を始める」というような官僚作文で切り抜けるのではなく、必要だと考えるのならTPPに参加することが必要だと真摯に訴えるべきだと思う。それなくしては、政権交代をした意味がなくなり、日本の政治は小泉以前に逆戻りするのである。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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