政治的な対立はどこの国との間でも起こりうる。日米関係もぎくしゃくしたことは何度でもあるし、ヨーロッパでもイギリスとドイツ、フランスは主導権をめぐって何度となく対立してきた(20世紀には世界大戦を二度も戦っている)。しかし戦争は、最後の外交手段だとしても、犠牲が大きすぎるということは、多くの国が嫌というほどわかっている。だからこそさまざまな話し合いの場を設けて、何とか意思疎通を図ろうとする。決定的な対立を避けるのが成熟した国家だ。イランの核開発問題にしても戦争を何とか避けたいというのが、当事国の本音であることは間違いない。
そういう目で日中関係を見た場合、本当はどうだったのだろう。日本が思っている以上に、尖閣をめぐる軍事衝突の危険はあったのかもしれない。日本人は戦争という気持ちはほとんどなかったろうが、中国(とくに人民解放軍)では、戦争の準備はできているというような発言も目立った。人民解放軍は、自衛隊と戦っても勝てるという自信があったのだろうと思う(無論、米軍が出てくれば話は変わってくる)。
中国がこうした姿勢に出てくるのには、もちろん10年に1度の指導部交代という特殊な時期という理由がある。そして国内総生産で日本を抜いたという自負もあるだろう。それだけではあるまい。日本とアメリカの間に、沖縄の米軍基地をめぐって隙間風が吹いている(最初に隙間をつくったのは鳩山首相だ)という事情もある。つまりは今の日本は、外から見る限り、外交力が弱いということだ。
こういった状態に追い込まれてしまったのは、主にあまりにも未熟な民主党の「政治主導」のせいだと思う。それと同時に、日本という国が戦後世界の中で、外交力を発揮して生き残り、経済発展を遂げてきたわけではないという歴史もあるだろう。安全保障ではアメリカの対ソ戦略に組み込まれる形で、米軍に頼ってきた。だからこそ安全保障のコストは安上がりだったし、経済に全力を注ぎ込むこともできてきた。
そして今、状況は変わった。アメリカは以前の力を失い、中国は海洋進出の準備を着々と進めている。もともと大陸国家だった中国が海洋進出するのは、資源や食糧の輸入国になったからだ。そして中国にとって生命線であるシーレーンは、日本のそれと見事に重なる。
そのバランスが、中国人民解放軍海軍の進出によって変わろうとしている。このときに、日本が今までの発想で、安全保障や経済を考えていいはずがない。
たとえば、日本が関わっている多国間経済協定の話は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)と、ASEAN+3,それにASEAN+6がある。この+3というのは日中韓、+6は日中韓にインド、ニュージーランド、オーストラリアを指す。中国は+3を提唱し、日本は+6を基本的に推進したい。要するに中国がどこまで主導権を握るかをめぐるせめぎ合いだ。とくにインドは中国に対するカウンターとして期待できる。
要するにポイントは、日本にとって経済問題だけ考えていればいい時代は終わってしまったということである。そしてその時に、注意深くつき合わなければならない相手は、間違いなく中国だということだ。政治家は鈍くても、経営者はそのことをとっくに見通しているかもしれないが。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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