成果主義とは、1990年代、バブルがはじけて以降、これまでの年功序列・終身雇用制度に変わって導入された評価制度です。基本的には「アメとムチ」による管理であり、ニンジンを前にぶらさげて馬を走らせるものです。もちろん、年功序列と違って、業務結果を評価することでこれまでくすぶっていた社員のやる気を引き出したり、給料に差をつけることで動かない社員を退職させるなどといった人件費削減の効果もありました。
しかし、最近あまりこの言葉を聞かないのは、これにともなう弊害が浮き出てきたからです。実際、近年の研究により「報酬は、かえって自発的に創造し、行動しようという意欲を失わせる」という研究結果がでています。私は身をもってこれを体験しました。
当時、私はシステムコンサルタントとして会計事務所系のコンサル会社におりましたが、あるとき、急に世界的なIT企業であるI社から大物がヘッドハンティングされてトップに就任し、ガラッと評価制度が変わりました。社員にはAとBという2つの選択肢が与えられました。Aはこれまでと同様の給与制度。しかしBプランは、ざっくり言えば成功すれば2割増し、しかし失敗すれば2割減、のような、いま思えばギャンブルみたいなプランでした。小心者の僕は、おとなしくAプランを選択。いままでにない緊張感が会社に走り、短期的には頑張ったように思いますが、当時下っ端だった自分は、自分が状況を変えられるわけではないし、結局はどのプロジェクトにアサインされるか、いわば運のようなものだったという記憶しかありません。私は上の研究結果の通り、意欲を失い、退職しました。
成果主義の弊害で一番大きいのは、それにより内的な動機が失われることです。わかりやすい例でいうと、子どもに数学ドリルを1ページするごとにお小遣いを与えるとしましょう。短期的にはお小遣い目当てに頑張るでしょうが、長い目でみると、そのドリルを解くことが、お小遣いを得るための手段になってしまい、数学そのものへの興味が失われていくのです。また、自分の成果ばかりに目が行って利己的になり、冒険をせず、創造性が抑制され、目先のことしか考えない短期的思考になってしまいます。
ただ、成果主義がうまく機能する場面があります。それは、単調で創造性をあまり必要としない、退屈な仕事の場合です。大量のDMに切手を貼る、ただひたすらデータ入力をする、などの作業では、作業をゲーム化し、「これができたらピザパーティをしよう」などと言えば、みな頑張って取り組むはずです。しかし、これも毎回続くとなると、すぐに効果が薄れるのは明らかです。
日本では、1980年代までは、皆で一緒に頑張り一緒に豊かになってきました。その過程ではそれほどアメとムチを使う必要がなかったでしょう。しかし、成果主義が導入されてからは、モチベーション論としては、またアメとムチの管理に逆戻りしてしまったのです。
まだ多くの企業が、創造力を必要とする仕事にさえも成果主義をあてはめています。そろそろ、人の持つ可能性を信じ、内的な動機に火をつける策を考え始めてみませんか。次回は条件つきモチベーションについてお話しします。
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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