日米欧同時不況がますます深化することが確実になっている。日本銀行は2008年度がマイナス1.8%、2009年度がマイナス2%と予測している。
OECD(経済協力開発機構)が昨年11月に発表した予想では、2009年の先進国の成長率予想は、アメリカがマイナス0.9%、日本がマイナス0.1%、イギリスがマイナス1.1%、ドイツがマイナス0.8%となっている。この見通しは、しかし、2009年の後半から回復が始まるという前提だ。現在の段階では、この前提が崩れ、それぞれの国の成長率はおそらく1ポイントから2ポイント悪化しそうだ。
一方、新興国についてOECDは、ブラジルが3%、ロシアが2.3%、インドが7.3%、中国が8.0%と前年よりも落とすところが多いものの、比較的高い成長率を確保できると予想している。
しかしこれも今では楽観的にすぎるという見方が大勢のようだ。たとえば原油価格暴落に悩むロシアは、2009年はマイナス2%になるのではないかと予想され、中国も5%台にまで落ちるというみるエコノミストもいる。
中国では、8%成長を確保しないと、労働者があふれて社会不安が助長されると言われている。それだけに5%台という数字は、中国共産党指導部にとっては悪夢に近いだろう。
英エコノミストに興味深い記事が載っていた。今年が丑年であることに引っかけて、中国経済は牛(ただし去勢された雄牛)ほどに強いか? と題する記事である。
http://www.economist.com/world/asia/displaystory.cfm?story_id=12987564
この中に面白い指摘がある。もし中国経済が資本主義ならば、景気の落ち込みはひどくなるだろう。しかしもし中国経済が統制経済であれば、景気の落ち込みは抑えられるかもしれないというのである。
統制経済であれば、中央政府が国有銀行に対して、企業に融資せよと命令すれば、多くの銀行はそれに従うだろうし、国有企業は人員整理をするなと言われればそれに従うだろうというのだ。何と言っても、中国の国有企業は、今でも工業出荷額の約3分の1を占めている。
エコノミスト誌は、実際、12月の銀行の融資残高は前年比で見ると19%増となっているという。中国の銀行は、世界の金融危機の影響をあまり受けていないとされているから、それぐらい貸す余裕はあるのかもしれない。
もっとも、市場による資源の配分は、実際には政府による資源配分よりも効率的なはずだ(そうでなければソ連が崩壊した説明がつかない)。つまり、ここで中国政府が4兆元にのぼる景気対策(さらに1月には8500億元の追加対策を発表)以外に、経済に対する直接介入をすれば、将来に大きな問題を残すことにもなりかねない。
それは過剰設備が残ること、さらには銀行が不良債権を抱えることである。中国の経済規模は、2007年の数字が見直された結果、ドイツを抜いて世界第3位になった。そして購買力平価で見れば、日本のGDPよりの5割増しぐらいの規模となっている。
その意味では、中国経済がもしいち早く立ち直れば(温家宝首相は自信を深めているようだが)、世界経済を牽引する力もあるだろう。しかし、政府が介入しすぎれば、結果的に傷が深くなる可能性もある。
中国がどちらに転ぶか、それが世界の景気を左右するという意味で、目が離せない。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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