企業統治指針としての多様性
2020年10月6日付日本経済新聞朝刊に、菅首相の今後の方針に関するインタビューが載っていました。その中に企業統治指針として、「女性、外国人、中途採用者を含め、多様性を確保」との戦略が入っています。記事の抜粋になりますが、
米コンサルティング会社のスペンサースチュアートによると、日経平均採用企業の取締役に占める女性の割合は2019年で8.8%、外国人取締役は3.5%にとどまる。フランスは女性が47.4%、外国人が36.6%。米国も取締役の26%が女性で、英国は33.2%が外国人取締役だ。首相は「今後新型コロナで各業種や企業の状況が大きく変化するなかで、変化に応じた成長を実現するには新しい意見が反映されるべきだ」と説明した。
とあります。
多様性は、国や企業の成長戦略なのです。
かたちを変えた性差別の難しさ
日本は遅れている、と言われますが、アメリカも同様の課題を抱えています。人種差別、性差別。シェリルサンドバーグが創設した女性のための非営利団体の総合監修者でもあり、モニカ・ルインスキーについて最初に記事を書いたジャーナリスト、ジェシカ・ベネットさん著の「フェミニスト・ファイト・クラブ」(海と月社)という本があります。
アメリカのビジネスシーンで女性たちが受けてきた差別とその対策方法を職場の女性差別サバイバルマニュアルとしてまとめているのですが、笑いながら読めるくらい、痛快に書かれている本です。
この本を読んで私が感じたこと。日本とアメリカの女性は同じ状況に陥っている。しかもアメリカはそこに根深く人種差別もプラスされている、ということ。
さて、その中で書かれていた内容で、だからこそ解決が難しい、と思ったことがあります。
簡単に引用させていただくと・・・
一昔前に比べると、露骨な性差別はなくなった。反対に女性への門戸は開かれていた。だからこそ、それまでになくたくさんの女性が、その門から入ってきた。だけど、長い間染みついた男性たちの態度は、1世紀程度で簡単に消えはしなかった。
例えば、おしりを触られたりするのは明らかにそれがフェアでないことはちゃんと(外から見て)わかった。それは疑う余地のない差別。法的定義と動かしがたい証拠がある性差別だ。でも今は50年代の性差別がまだ根絶されていないのに加えて、別の種類の性差別が登場している。例えば陰険でありながらさりげなく、表面的には正しい表現で、親しげでさえある。差別はその陰にこっそり存在し、私たち女性の成長を邪魔する。あるいは単に権力を求める女性を毛嫌いする。厄介なことにそれらは具体的に特定できない。取り立ててあからさまでもないし、数値化も難しい。声高に非難するのはもっと難しい類の行動で、はっきり自覚があるとも言えない。
このような内容が書かれていました。私は企業研修や講演で、女性当人とその上司にあたる(多くは男性の)皆様に、ダイバーシティ推進に関するお話をさせていただいているのですが、うちの会社は、さすがにセクハラとかはないですし平等ですよ。だから、うちの人事が今更時代錯誤のことをなぜ言っているんだって不思議ですよ。
こんな不満げな受講者の声を聞くことがあります。
ではなぜ、政治でも経済でも、女性リーダーが少ないのでしょうか。
無自覚のまま時代に取り残される「選ばれない組織」
私の実感として、女性活躍が進んでいない、と感じている人が多いカテゴリーは、
- 老舗の中小企業の女性社員
- 女性の管理職またはその候補
のようです。
まず、老舗の中小企業がどこも進んでいないということではなく、経営者の考え方次第、というところにあります。他との接点が少なく、社員教育を積極的に実施していないケース。このままで問題ない、と思っていたり、環境変化に気づけていなかったり。確かに現時点では問題ないですが、何も手を打たないと、どんどん時代に取り残されたり、色んな意味で選ばれない組織になっていきます。少子化が進む中、人が採用できるか、はとても大事。例えば、あの会社は新参者は活躍しづらいらしい、差別があるらしい、長く勤めている人は長いが、新しい人の離職率が高いらしい・・・。
このような評判が、外国人や女性、若手に広まると、採用につながらなくなります。これを今のうちに問題と認識し、変えるかどうかは、経営者の意識次第なのかもしれません。
実際、私は、キャリアカウンセリングで転職を考えている人に、入社を決める前に、以下のことを事前調査するように促しています。
- ビジネスモデル、将来性
- 経営者の考え方が柔軟か
- 中途者、若手、外国人、女性の離職率と今の会社の構成。
例えば、年配男性の比重が高すぎないか、など。
そして女性の管理職またはその候補の方たちからも、うちの会社はまだまだダイバーシティは進んでいない、との声があがってきます。それは、日系、外資系共に同じ状況です。以前、管理職の研修を受講された女性がこんなことをおっしゃっていました。「若手の頃は、弊社は男女平等でフラットだと思って伸び伸びと仕事をさせてもらっていたけれど、管理職になった途端、オールドボーイズクラブの集団の中で闘わなくちゃならなくなった。会社全体では女性も増えたが、管理職となると、まだまだマイノリティ。見えない差別を感じる。」
とのお話でした。
協力・思いやりが社員みんなを幸せにする
これらの問題は、「文化的風土的」な背景によるもので、悪気があるわけではなく、男性側の無意識から来るもの。それはかつて、女性社員はアシスタント、一般職、事務職、雑務係だった名残りなのかもしれません。
男性が悪い、どちらが悪い、とかそういうことではなく、遅れをとっている日本の社会を変えるためには、男女共に意識を変える必要がある、ということです。
過去の価値観に縛られることなく、誰が悪い、とかではなく、お互いが手を取り合い協力して、社会を変えなくてはならない時ではないでしょうか。そのためには、未来を見て、どうしたら社会が良くなるか、社員みんなが幸せになれるか、を念頭に置いて物事を判断、推進することかもしれません。
さて、先ほど紹介した「フェミニスト・ファイト・クラブ」の中で私が最も印象に残ったのが、このクラブのルールに「女性同士で闘うのではなく、協力しあう」という前提があること。女性活躍を進めるためには、女性同士の協力、思いやりが不可欠のようです。
藤井佐和子ふじいさわこ
キャリアアドバイザー
個人と企業からの依頼によるキャリアカウンセリングは、延べ17,000人以上の実績。学生からシニア層まで年齢や性別を問わず、自分らしいキャリアデザインをするための選択とアクションに向けたカウンセリングを…
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