火山の多い日本において、地熱発電は大きな潜在能力を有します。地熱発電も2012年から実施されている再生可能エネルギー固定価格買取制度の対象となっています。今回は地熱発電についてふれてみます。
■日本と世界の地熱発電
国別の地熱発電量は、多い順位にアメリカ合衆国、フィリピン、メキシコ、インドネシア、イタリア、日本、ニュージーランドです。その他、アイスランドやロシアなど多くに国で地熱発電が行われています。アメリカ合衆国ではカリフォルニアやハワイなどが中心となって地熱発電が行われています。
地熱発電の潜在量で見てみますと、日本は米国、インドネシアに次いで世界第3位で、2300万キロワット程度と推算されています。これは原子力発電所に換算すると20基分以上に相当します。日本は地熱発電の大きな潜在量を有しているにもかかわらず、本格的な設備は1999年の八丈島を最後に新設されておらず、近年は開発がストップしている状態です。地熱の埋蔵量が多い場所が、国立公園や国定公園に集中しており、行政面からの規制がかかっていることが主な原因です。
地熱発電は、地中から水蒸気もしくは熱水を取り出し、それらから得られる水蒸気を用いてタービンを回すことによって電力を発生させます。蒸気タービンで発電することは原理的には火力発電や原子力発電と変わりません。地熱発電には様々な技術方式がありますが、その概要は以下の通りです。
■フラッシュサイクル式とドライスチーム式
地中から蒸気と熱水が得られる場合に、両者を分けてから蒸気で発電する方法がフラッシュサイクル式です。蒸気井から得られた蒸気にほとんど熱水を含まなければ、簡単な湿分除去を行った後に蒸気タービンに送って発電を行う方法がドライスチーム式です。
日本最大の地熱発電所である大分県の八丁原発電所はフラッシュサイクル式で出力は11万kWです。深さ760mから3000mの蒸気井が30本あり、1時間あたり890トンの蒸気を得ています。発電に利用された後の熱水は10本の還元井で地下に戻されるほか、一部は近隣の温泉に供給されています。
ドライスチーム式の地熱発電の実施例としては、松川地熱発電所や八丈島発電所があります。
■バイナリーサイクル式
地下の温度や圧力が低いために高温の蒸気は得られず熱水しか得られない場合でも、アンモニア,ペンタン,フロンなど水よりも低沸点の熱媒体を熱温水で沸騰させて、その蒸気で発電する方法です。高温の温泉水は適度な温度まで冷却して使用されますが、その時に放出される熱を利用して発電することもできます。このような発電方法は温泉発電ともよばれています。温泉発電は、源泉の枯渇問題や環境問題等に無関係に発電可能な方式であり、また井戸を掘るなどの工事は不要であるなどのメリットがあり、今後期待される発電方法です。
■高温岩体発電
地下に存在する高温の岩体に水を送り込んで蒸気や熱水を得て発電する方式を高温岩体発電と呼ばれています。このような技術が開発されれば、地熱利用の機会を大幅に拡大することができます。日本でも研究が行われていますが、オーストラリアでは7万5千kWの大規模な高温岩体地熱発電プラントの建設が現在進められています。
■マグマ発電
地下に存在するマグマは高温で流動性を有します。地殻内でマグマが蓄積されている部分をマグマ溜りと呼ばれます。未来の技術として、マグマ溜り近傍の高熱を利用するマグマ発電の検討が行われています。潜在的なエネルギー資源量は6百万kWにおよぶと見積もられています。ただ、技術開発には50年はかかると言われています。
■地熱発電の特徴と課題
地熱発電は地中のエネルギーを利用することから、開発に不確実性を伴うなどの開発リスクがあります。地熱発電は一般に計画してからプラントが完成して発電できるまでの期間、すなわちリードタイムが15年前後になると言われています。
地熱発電の適地の近くには温泉場があることが多く、温泉業者との事前の調整も必要です。風力発電装置においてもしばしば言われていることですが、地熱発電装置の設置が立地場所により周りの景観を損ねる懸念もあるようです。
一方、地熱発電は二酸化炭素を発生させないこと、資源が枯渇しないことなどのメリットを有します。また、太陽光発電を推進する場合は広い敷地が必要ですが、狭い国土の日本では限界があります。地熱発電の地上の設備はコンパクトです。
火山国の日本には地熱エネルギーは潜在的に豊富です。原発事故の後、再生可能エネルギーへの関心が高まる現在、地熱発電の大きな可能性を今一度見直すべき時期ではないかと思います。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…