私は、キャリアアドバイザーとして、延べ17000人ほどの方のキャリアに関するお悩み解決のお手伝いをしてまいりました。この連載では、様々な事例に触れながら、会社として、また、当人としてどのようにキャリア形成すべきなのか、をお伝えしていけたらと思っています。
キャリア支援は社員の離職を助長するのでは?という不安
先日、企業の人事担当者向けに「若手」「ミドル・シニア」それぞれのキャリア形成に必要な考え方、というタイトルでオンラインによる講演をさせていただいたのですが、企業としても、人材を抱える中、何が正解なのかがわからず、悩んでいらっしゃるご様子が感じられました。
弊社を立ち上げた2002年当初から、キャリアデザイン研修や講演を様々な団体にて実施させていただいてきたのですが、10年位前まで、会社として社員にキャリアデザイン研修をやっていいものかどうか、を迷われているケースも多くお見受けしました。「研修や講演を受けたら社員が外に目を向けてしまうのではないか・・・」つまり、転職を恐れて実施すべきか悩んでいることが伺えました。
某企業では、研修担当の方に、「必ず講義では、キャリア理論を説明する際、自社内の、を頭につけてお話してほしい」と言われたことを記憶しています。
ミドル・シニア層にこそ必要な自律的キャリア形成
さて、その後月日は流れ、2021年。コロナの影響もあって、世の中の変化は加速しています。先が見えないのは、本人も会社側も同じである中、真剣に雇用される側は、「自律的にキャリア形成していく必要性」をひしひしと実感しています。
自社内だけではなく、どこでも通用する人材になるための自律的人材になるためのキャリア支援、というスタンスで、研修や講演のご依頼をしてくださっているのを感じています。その意識の裏側には、特にミドル・シニア層への課題が隠れているようです。
ご存知のことと思いますが、この背景には高齢化問題があります。2020年時点で46~49歳の約800万人人口の団塊ジュニア世代が2030年には定年間近になり、国として、年金など社会保障制度を維持しなくてはなりません。その負担を国が少しでも減らす必要もあり、企業に、より長く高齢者を雇用してもらいたいという思惑があります。
2021年4月から、希望する従業員に対して70歳まで就労機会を確保するよう、義務が課せられます。すでに2012年の高年齢者雇用安定法の改正で、65歳までの雇用が義務化。経過措置が終わる25年からは、すべての企業が希望する従業員を65歳まで雇用しなければならなりません。
終身雇用が定着している特に大手やその関連会社としては、ミドル・シニア層を更に長期的に雇用し続ける未来が待っています。でも、どのように高齢者に活躍していってもらったらよいのか、どんな役割を期待すればいいのか・・・。ここがイメージできない、とおっしゃる企業も非常に多く、だからこそ、当事者が、自律的にキャリアを考えていってほしい、と願っている節があります。
60代70代のキャリアは、誰もが想像しづらいものです。筆者も現在53歳。将来どのように働いているのか、私にもイメージが明確には持てません。
目指すべきは60代70代になっても活躍できるキャリアデザイン
さて、このような状況になり、企業が今、キャリアデザイン研修や講演を実施したいと思っているのは当然のことで、企業も本人も長期的に活躍するためには、真剣に未来を考えていかなくてはならない、つまり、企業は、シニアをどのように活用していくのか、本人も定年退職後を見据え、今、会社に貢献できることと将来に向けて、在職中にすべきことを考える必要があるのです。組織側にとっても本人もキャリアを考える、ということは、喫緊の課題です。
今、本気でエンプロイアビリティ(雇用される能力)とエンプロイメンタビリティ(社員にとって魅力的な会社かどうか)の関係性が見直されるべき時です。この関係性が悪いと、もたれ合いになります。雇用される側は、今の組織の中で、エンプロイアビリティをいかに高めていけるか、がキャリアデザインになりますし、また、組織側は、優秀な人材にいかに働き甲斐のある仕事や環境を提供できるか、が課題となり、その先には、自社で活躍した人材が将来、外でも活躍し続けていることが目指すべき姿ではないでしょうか。
嫌だから辞める、物足りないから辞める、という転職ではなく、前職の経験を生かして、更に違うフィールドでのステップアップを目指して前向きに転職する人を増やすこと。60代、70代の定年退職後のセカンドキャリアでもイキイキと活躍できる人、さすが、●●社出身の人は優秀だね、と言われる人材をたくさん輩出できること、こんな支援を企業側ができることが理想ではないでしょうか。
藤井佐和子ふじいさわこ
キャリアアドバイザー
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