欧米流を模倣して国内で事業を行ったが行き詰まった企業の話や、日本に進出してきた企業の撤退などの事例がよく聞かれます。日本文化と欧米文化はそれぞれの歴史的な発展の結果、本質的な相違があります。グローバル化が進む国際社会において、文化の相違をよく理解して物事を進めることが重要です。今回は日米のプロスポーツの在り方を例にとり、この問題について考えてみます。
なぜ米国でプロスポーツが盛んなのか
日本のプロ野球の試合では本拠地のチームのファン以外に、ビジッターチームのファンもある程度の人数が球場に観戦に来ます。例えば、東京の人はみんな巨人を応援するのではなく、東京ドームには阪神や広島、中日のファンもたくさん来ています。
さて、米国では事情は全く違ってきます。たとえば、レッドソックスが本拠地のボストンでニューヨーク・ヤンキーズと試合をするときは、ボストンおよび周辺の人々が入場し、基本として皆がレッドソックスを応援します。もしヤンキーズを応援する人がいたとしたら、その人たちは試合の日にわざわざニューヨークからやって来た人か、熱烈なヤンキーズファンです。そのような人々は極めて少ないと思われます。
もしボストンでレッドソックスを長年応援していた人が、ニューヨークで働くことになった場合は、基本として地元のニューヨークの野球チームを応援します。このようなファンの在り方は野球だけではなく、アメリカンフットボールもバスケットなどのプロスポーツは全て同じです。
日本と米国でこのような違いが生じた理由は、米国では異なる人種や民族、異なる宗教の人々によって構成された社会であるからです。ほぼ同一の民族で構成された日本では、お寺の盆踊りや神社の祭には、宗教や人種の相違を意識せずに、自然に皆が参加して一体感を持つことが出来ます。米国ではそうはいいきませんが、人々が地域社会やコミュニティーで生きていくためには、時には皆が一体感を持つことが出来る機会は重要です。
地域において地元のチームを皆で応援するということは、人種や宗教の違いをこえて行うことが出来ます。米国のプロスポーツはそのような大きな役割をも持っています。従って、地域の誰もが応援できるように、地元のチームが特定の企業のチームではなく、またチーム名に企業名を冠することはありません。時にはチーム名の代りに地域名が使われることがあります。レッドソックスがヤンキーズのスタジアムで戦う場合に、Boston at New Yorkというように表されることがあります。
日本におけるプロスポーツの在り方
さて、日本においてはプロ野球チームに企業名を付けてもよく、またテレビや新聞では企業名を冠したチーム名で報道されます。この効果は莫大な宣伝費に相当します。日本で企業が単独で野球チームを所有できる訳は、企業が球団を持つと宣伝費を支払わずとも極めて大きな宣伝効果が得られるからです。その分球団経営に多額の資金を投入でき、結果として選手の年俸が高くなっています。
ヨーロッパではプロスポーツと言えばサッカーが有名ですが、ヨーロッパの状況も米国に大変似ています。日本のプロサッカーであるJリーグが発足して30年になります。Jリーグはヨーロッパのプロサッカーを参考にして設立したようで、特にチーム名から企業名を排除しています。
率直に申し上げて、日本のプロ野球を一流とすれば、Jリーグはいまだ二流(もしくは三流)と私は感じています。J1所属のチームですら財政難に陥ることがしばしば報道されています。プロ野球とJリーグを比較すると、残念なことに選手の年俸も格段の差があります。
Jリーグがいまだ二流と感じられる最大の原因は、ヨーロッパなどのプロサッカーの真似をして、チーム名から企業名を排するなど地域チームとした位置付けにあるのではないかと思います。日本のプロ野球のように企業がチームを所有する形式にして、チーム名を企業名で表すことが出来るようにすれば、日本のJリーグもまだまだ発展の余地があるように思えます。そうすれば資力のある企業がサッカーチームを持つことになり、サッカーの人気が益々上がり、選手の年俸もプロ野球並みに上がって行くことでしょう。
日本ではプロ野球の他、ラグビー、バレーボール、バドミントン、駅伝チーム、社会人野球などは企業名を冠して活動し、成功しています。これがまさに日本におけるプロおよびアマチャースポーツと企業の望ましい在り方を示しています。
日本には都市対抗野球が戦前からあります。米国のメジャー・リーグが地元に根ざしたフランチャイズ制を採用しているのを真似て、日本の各都市を代表するチームを競わせる野球大会として開始されました。しかし、現在ではチーム名に都市名を使わず、企業名が使われています。これが現実です。
また、中国にもプロサッカーが存在します。調べてみますと中国のサッカーチームは企業名を冠しているチームが多いようで、特に過去に中国のトップリーグで優勝したチームは、チーム名に企業の名前が入っています。これは、欧米とアジアではプロスポーツの土壌に大きな違いあがることを、中国サッカー界がしっかりと認識しているからでしょう。まことに賢明なことです。
選手に恥をかかせない日本のプロ野球
日本のプロ野球界からは4人が国民栄誉賞を受賞していますが、サッカー界からはこれまで受賞者は出ていません。未だ現役選手でありレジェンドとも呼ばれるM選手が、サッカー界から最初に受賞してもおかしくないと思われます。M選手が受賞されないと、後に続く選手はなかなか受賞できないことでしょう。しかし、サッカーファンから絶大な期待が寄せられていたM選手は、ワールドカップに出場出来なかったという苦い経験があります。このようなことは、通常のプロスポーツ界では絶対に考えられないことです。
さて、日本のプロ野球はワールドカップクラシックで2回優勝し、国民に大きな感動を与えました。プロ野球において、全日本チームを率いるある監督が、「あずかっている選手に恥をかかせないことが一番大切」という意味の発言していました。このあたりの違いが、日本においてプロ野球がダントツの一流プロスポーツの地位を占めているのに対して、サッカーのJリーグが二流、時には厳しく三流の評価を受けている大きな理由の一つと考えられます。
文化の違いを正しく認識してビジネスを成功に導く鍵
海外で成功している制度を日本に導入する場合は、日本でも成り立つかどうかということをきめ細かく検討しておかないと、うまく行かない場合があります。同様に、国内で成功した日本企業が海外に進出する場合、進出先の文化などを十分に検討しておかなければ、進出が失敗になる場合があります。
経済がグローバル化している現在、国や地域間の文化の相違を的確に見極めることが出来る知識や情報、経験を持つことによって、ビジネスを失敗することなく進むことを期待いたします。
さて、私はサッカーも大変好きです。同好会ですが高校1年から大学2年までサッカーをしていました。日本国内のサッカー選手がプロ野球選手並みの年俸を得られるような日が来ることを願っています。今のままでは国内のサッカー選手が可哀そうです。
文化の違いを無視して、欧米の上部だけをまねたJリーグを大幅に改革し、チーム名に資力ある企業の名前を冠することができるようにすることがまず重要であろうと思います。たとえば、長崎にジャパネットタカタ、神戸に楽天、名古屋にトヨタ、埼玉に三菱、東京に東京ガスや読売などのチームがあってもいいと思います。
プロ野球の成功を学ぶためには、現在までの繁栄を導いて来たプロ野球界の盟主である読売巨人軍に、Jリーグ・サッカー協会が教えを乞い、指導してもらうとJリーグにも希望のある未来が開けるかもしれません。Jリーグの限りなき発展をご期待いたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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