日本自動車販売協会連合会(自販連)がまとめた予測によると、2020年の国内新車販売台数は460万台で2013年度に比べて20%近く減少するのだと報じられた。少子高齢化が進むことや、都市がコンパクトになるため車を保有する人が減るからだという。
日本の国内自動車販売台数のピークは1990年の780万台だ。実際のところそこから比べれば、現時点でも3割以上減っている。その意味では大幅に減ると言われても、「何を今さら」なのだが、このところ人口減少の影響がさまざまな形で論じられているから、NHKも気になったのだろう。
減る理由は明白だ。若者が一貫して減っていることだ。自動車業界が「エントリー層」と呼ぶのは、要するに運転免許証を取得して、初めて自分で自動車を買おうとする消費者のことである。
正確に一致するわけではないが、潜在的な受容者としての新成人と一致すると言ってもそう大きな間違いはない。いわゆる団塊の世代が成人になり始めたのは1967年だ。そのころ日本は高度成長時代。それまで高嶺の花だった自動車に、庶民の手が届くようになった時代である。
団塊の世代とは1947年から49年の3年にかけて生まれた世代。かく言う私も1948年生まれである。この世代は人数が多い。ひとつの年で260万人を超え、全部合わせると800万人強もいる。私が成人になるころは、学生時代に免許証の取得に励む人も多かった。
さらにわれわれが初めて給料やボーナスを手にしたとき、それを頭金にして車を買おうと考えていた人も多かった。要するにわれわれの「ウィッシュリスト」のトップは自動車だったのである。
それがどうだろう。今年の新成人は122万人にしかいなかった。20年前の1994年には207万人もいた。わずか20年で4割も減っているのである。しかも彼らのウィッシュリストには残念ながら自動車がトップにはない。調査にもよるが、ベスト10位にすら入らないケースもあると聞く。
それでは自動車が売れるはずがないのである。現在は、従来の自動車ユーザーが買い換える需要が主になっている。買い換えのサイクルを短くするように誘導すれば、販売を増やすことも可能かもしれない。税金が上がるときには駆け込み需要も増える。エコカー補助金もそれなりに効果はある。しかし、傾向として国内の自動車販売がじり貧であることに間違いはない。
そうなると、問題は自動車会社が国内での生産にどれほどこだわり続けるのかということになる。これまでにも国内工場は閉鎖されてきているが、輸出を増やさねば年間1000万台近い生産は維持できない。しかし中国や東南アジアでの生産が増えてくれば、日本から輸出される自動車を増やすのは容易なことではない。自動車工場が減れば、それを支える日本の中小企業の仕事も減る。そこで雇用が減れば、当然、自動車を買いたいと思う人も減る。
そういった「構造的」縮小の時代に突入しているのだということを、われわれは認識してかかる必要がある。人口が減って働き手がいなくなるということがよく強調され、女性を活用すべきだとか、生産性を上げるべきとか、海外から人を入れる要件を緩和すべきとかいう議論がされている。しかし、少なくとも問題の一端は人が減れば需要も減るということなのだと思う。需要を増やすためにどうするのか、そこを経済政策としてきちんと位置づければ、その需要にどう対応するかは企業が考えるだろう。さてアベノミクス第3弾によって、日本経済を牽引するだけの個人需要が生まれるのか。それはもう少し様子をみなければ分からない。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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