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2022年02月10日

カーボンニュートラルの要、水素の製造技術

カーボンニュートラルの実現は決して容易なことではありませんが、地球温暖化を防ぐためには人類はカーボンニュートラルに挑戦しなければなりません。脱炭素社会を目指すためには、化石燃料に変わる大量の水素の製造が大きな役割を果たします。今回は海外で大量の水素を製造して、日本に運ぶ技術についてふれてみます。

水素利用の意義

カーボンニュートラルを達成するためには、電力(発電)部門の脱炭素化を行うとともに、電力部門以外(産業・運輸・業務・家庭部門)おいては電化が中心となります。熱需要に対しては、水素化とCO2回収で対応します。

カーボンニュートラルの要点は、化石燃料を極力使わない、CO2を大気に排出しないということに集約されます。そのためには、水素をエネルギーとして利用することが極めて重要です。カーボンニュートラルの達成とは水素社会の構築とも考えられます。水素利用の意義をまとめますと、次の通りです。

  1. エネルギーセキュリティーへの貢献:
    東日本大震災後、日本のエネルギー自給率は6~7%と低く、また、化石燃料の大半を中東等、海外からの輸入に依存しています。エネルギー安全保障の観点からは、国内のエネルギーの活用やエネルギー輸入先の多様化、特定のエネルギーに偏ることなく多種類のエネルギーの活用などが求められており、様々な原料から製造できる水素エネルギーは日本にとって大変重要なエネルギーと言えます。
  2. 低炭素化への貢献:
    水素エネルギーは利用段階では二酸化炭素を排出しないエネルギーであり、CO2排出量の多い発電部門、産業部門、運輸部門等において水素を利活用することによって、低炭素化へ寄与することができます。製造時にCO2を排出しない方法で作った水素を利用することで、カーボンニュートラル実現に大きな貢献ができます。
  3. 日本の技術力で世界をリード:
    日本においては、50年以上にわたって水素エネルギーや燃料電池の研究・技術開発が行われてきました。エネファームや燃料電池自動車をいち早く実用化するなど、国際的にも高い水準の技術を日本は有しています。今後世界においてこの分野の進展により、日本の経済・産業が一層発展することが期待されます。

大量の水素をいかに製造するか

水素は自然界ではまとまって存在してはおらず、天然ガスのように地中から掘り出して得るというようなことはできません。脱炭素の水素社会を構築する場合には、大量の水素を何らかの方法で製造しなければなりません。また、海外で大量の水素を製造した場合は、常温常圧で気体の水素を効率よく運搬する方法も必要です。図1に海外での水素製造法および水素の運搬法の候補例を示します。

図1 海外での大量の水素の製造と日本への輸送法 (資料:内閣府)図1 海外での大量の水素の製造と日本への輸送法 (資料:内閣府)

海外で水素を製造する方法として、主に次の2つが考えられます。

  1. 化石燃料から化学反応で水素を製造:
    条件が整えば、海外の石炭や石油、天然ガスの生産地で、水素を製造して日本には運ぶことができます。具体的には改質反応によって、化石燃料と水蒸気を反応させて、CO(一酸化炭素)とH2を生成することができます。さらに水性ガスシフト反応により、COと水蒸気を反応させ、H2を得ることが出来ます。これらの反応で生成したCO2は分離回収して地中に貯留します。これはいわゆるCCS(CO₂の回収・貯留技術)の応用です。この石炭から水素を製造する技術に関しては、現在日豪の協力で研究開発が進められています。
  2. 再生可能エネルギーを利用した水の電気分解:
    海外で大量の水素を製造するもう一つの方法は、水を電気分解して水素を作る方法です。例えば海に近い砂漠のような場所で、太陽光もしくは太陽熱により発電を行い、その電気を使って水を電気分解します。

水素の日本への輸送方法

水素は常温常圧では気体です。大量の水素を気体のまま運ぶことは非効率的です。海外から日本に水素を効率的に輸送する方法として主に次の3つが考えられます。

  1. 水素を液化する:
    気体の水素を-235度に冷却すると液化できます。ちょうど液化天然ガスをタンカーで運ぶような要領で、液体水素を運びます。
  2. 有機ハイドライドに変える:
    例えば、液体のトルエンに水素を反応させますと、液体のメチルシクロヘキサンを生成し、それを日本に運びます。日本では逆にメチルシクロヘキサンをトルエンと水素に分けます。トルエンは海外の水素生産地に運び、繰り返し利用します。
  3. アンモニアを生成する:
    得られた水素と空気中の窒素と反応させてアンモニアを作り、日本に運びます。アンモニアは常圧で-33度に冷却するか、常温で8.5気圧に加圧すると液体になります。こうして、アンモニアも液体の状態で輸送することができます。アンモニアは工業的に燃焼用の燃料として使うことができます。

温暖化問題の解決を願って

水素を化石燃料の代りに使用する場合は、既存の燃焼機器はそのままでは使用できません。水素用の工業炉、燃焼器、ガスタービン等も開発していかなければなりません。

なお、水素は爆発性があり、また水素は物質を透過し易い気体です。水素は物質に対して還元性および酸化性があり、使う装置に十分な対策が必要です。水素を利用する場合は取り扱いには特段の注意が必要です。なお、アンモニアも爆発性があり、また毒性も強い物質です、やはり取り扱いには相当の注意が必要です。

カーボンニュートラルの達成を目指す場合は、水素社会の構築は避けることはできないと思います。しかし、水素やアンモニアは爆発性があります。工業的に厳重に管理された状態で使う場合であれば安全性もかなり確保できると思います。一方、住宅等の民生用で使う場合は安全確保に相当の注意が必要です。

様々な技術を活用して、安全に水素を利用できる社会が実現し、カーボンニュートラルが達成され、地球温暖化問題が解決されることを期待いたします。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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