2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、現在も続いており、いつになれば終わるのか全く予側がつきません。西側の民主主義の国々はウクライナを支援し、またロシアに対する様々な経済制裁を打ち出しています。日本ではコロナ禍、原油高、円安により厳しい経済状況ですが、さらにこの度のウクライナ戦争は、日本経済に大きな影響を及ぼします。今回はこの点について触れます。
ロシアと日本のエネルギー事情
国土が広く資源が多いロシアは、エネルギーや鉱物資源、農産物の輸出が盛んです。西側諸国のロシアに対する経済制裁の基本は輸入禁止、輸出禁止、すなわち全面的な禁輸です。
日本の一次エネルギーの自給率は11.8%と極めて低い状況です。また石油の備蓄日数も187日と主要国の中では大きいとは言えません。そのような中でロシアのウクライナ侵攻という事態が発生しました。ロシアとの関係で日本のエネルギー事情を見てみます。
日本の原油の輸入先は比率の大きい順に、サウジアラビア(34.1%)、アラブ首長国連邦(32.7%)、カタール(9.3%)、クウェート(8.9%)、ロシア(4.8%)と、ロシアは日本にとって5番目に原油の輸入量が多い国です。
次に日本の石炭の輸入先は、オーストラリア(68%)、インドネシア(12.4%)、ロシア(11.9%)と、ロシアは3番目に石炭の輸入量が多い国です。
日本の天然ガスの輸入先は、オーストラリア(39.2%)、マレーシア(13%)、カタール(11.2%)、ロシア(8.3%)と、ロシアは4番目に天然ガスの輸入量が多い国です。
日本は地理的関係から、サハリンから天然ガスおよび原油を輸入しています。開発の段階から日本の多くの企業が参加しています。ウクライナ戦争の勃発により、サハリン開発に中心的な役割を担ってきた英蘭シェルはサハリンから撤退することになりました。日本はサハリンからは撤退しないと表明しています。
ロシアのレアメタルと日本
世界の生産のうちロシアが10%前後以上を占めるレアメタルレは、比率の多きものからあげますと、パラジウム(37%)、アンチモン(22.7%)、バナジウム(17.3%)、チタン(12.9%)、テルル(12.1%)、プラチナ(10.6%)などがあります。
これらのレアメタルの重要な産業用の用途としては、パラジウムとプラチナは産業的には自動車エンジンの浄化触媒として、アンチモンは自動車や太陽光発電用等に、バナジウムは鉄鋼の合金物質として、チタンは航空宇宙用途等、テルルは太陽電池等で使われています。
西側諸国を中心としたロシアへの経済制裁に対して、ロシアが対抗措置としてこれらのレアメタルの輸出を停止するかどうかは、今のところ分かりません。そうなった場合は日本を含め先進工業国には少なからず影響が出ることでしょう。
ただし、レアメタルについては冷静に判断する必要があります。他の産地が増産すれば済む場合もあります。鉱物資源は地中から産出されるもので、それぞれの鉱物資源は世界中に分布しています。鉱物資源は安く出荷できるところが産地となっているだけと考えることができます。
国土の広い中国もいくつかのレアメタルの産地となっています。中国は政治的葛藤の対抗措置として、2010年にレアメタルの日本への輸出を規制しましたが、結局は失敗に終わりました。このような過去の事例も、ロシアが経済制裁に対してどのような対抗措置をとるかの予測する材料となることでしょう。
EUのエネルギー事情とロシア制裁
2014年にロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合したことに対して、サミットG8からロシアは除名されました。西側諸国はいくつかの制裁措置を実施したものの、ロシアに対する厳しい経済的な制裁措置はとられませんでした。それでも、ロシアの通貨のルーブルが、1ドル30ルーブルであったものが、1ドル約70ルーブルに下落しました。その結果、ロシア経済や国民生活に大きな影響が出ました。ロシアにおいて外貨を稼ぐためには石油や天然ガス、石炭を沢山輸出しなければならず、増産を行いました。そして、コロナ禍の起こる前まで原油価格の安値安定が続いていたのは、ロシアの増産も一因でした。
なお、今回のウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁により、ロシアのルーブルは1ドル140ルーブル近くまで暴落しました。それに対して、ロシアは天然ガスの代金の受け取りをルーブルで行うようにしました。その結果、1ドル70ルーブルに回復しました。しかし、本来はドルが欲しいはずですが、ルーブルで受け取るということは、身を削ってルーブルを守っていることになります。制裁によりロシア経済がいかに厳しく苦しい状況にあるかが如実に表れています。
今回のロシアのウクライナ侵攻に対して、国連でロシア非難が決議され、西側諸国は次々と制裁措置を表明しました。しかし、ウクライナに軍事的に支援する国があれば核兵器の使用もありうるとロシアは主張しています。ウクライナに戦闘機などを提供する場合はロシアに対する戦争行為とみなすと、ロシアは西側諸国を強く牽制していますので、どの国も本格的な軍事支援は行わず、限られた種類の武器の提供にとどまっています。
核保有国がその使用をちらつかせながら、他国に軍事侵攻するようなことは二度とあってはいけません。そのために国際社会が行えることは経済制裁のみです。今後は西側諸国を中心にロシアに対して強力な経済制裁が行われていく事になります。
ドイツは2020年に、石油の34%、天然ガスの55%、石炭の45%がロシアからの輸入でした。特に、天然ガスは国内需要の9割以上を輸入に頼り、加えて輸入の半分以上をロシアに依存しています。
ヨーロッパ全体では天然ガスの約4割をロシアからパイプラインで輸入しています。EUやイギリスはロシアからの天然ガスの輸入を2027年頃までに停止する方向で進めています。その分はロシア以外の産出国から液化天然ガスとしてタンカーで輸入することになります。この禁輸措置はロシアにとって大きな痛手となります。ヨーロッパに輸出していた天然ガスの新たな輸出先を、ロシアが見出だすのは容易ではありません。中国は隣国でありますが、ヨーロッパに輸出されていた量の天然ガスを全て輸入するほどの需要は現時点ではありません。輸入するにしても、ロシアから天然ガスを運ぶパイプラインの建設から始めなければなりません。
日本のへの影響
日本政府は、ロシアに対する経済制裁としてロシアからの輸入を禁止する措置を4月19日から始めました。輸入禁止措置は初めてでアルコール飲料や木材など38品目が対象となります。ロシアから日本への輸入総額は、2021年は1兆5000億円ほどで、このうち今回、輸入禁止となる品目が占める割合は、全体の1.1%です。
エネルギー事情の極めて脆弱な日本は、当初ロシアに対するエネルギーの禁輸などの制裁は避ける方向でした。しかし、欧米が強力なロシア制裁を打ち出す中で、日本も結局歩調を合わせることになりました。
ロシアおよびウクライナは世界有数の小麦の産地です。特に戦場となっているウクライナでは今後の小麦の生産が順調に進むのかどうかが心配されます。
これからは、原油や天然ガス、石炭などのエネルギー、またレアメタルや小麦などの世界的な流通が大きく変化していくことになるでしょう。ウクライナ戦争がどう進展するのか、現時点では誰も予測がつかず流動的な情況です。資源が乏しい工業立国の日本は、コロナ禍、原油高、円安の中で、さらにウクライナ戦争の影響を大きく受けざるを得ないことでしょう。
企業においては、ウクライナ戦争、ロシアの経済制裁の自社への影響を細かく分析し、その影響を最小限にとどめられることを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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