世界経済全体がほぼゼロ成長になりそうな2009年。こんなことは第2次大戦後初めてである。もっと言えば、現在のような体制、つまり信用通貨(通貨の価値が金などにリンクしていない)制度になってから初めてだから、人類にとって初の経験ということになる。
だからどう解決すればいいのか、実際のところ、誰も確信をもった答えを持っていない。景気が落ち込んだときにやれることと言えば、金利を引き下げて金融を緩めること、そして政府が需要をつくり出すために財政資金を投じて(減税も含む)何かをすることぐらいだ。しかしそれがどの程度の効果をもつのか、他国の影響をどう受けるのか、正確なところはよくわからないから、いつ景気が回復するかもよくわからない。
金融を緩めるといっても、もう先進国はほとんど緩みきっているような状態だ。アメリカも日本もほぼゼロ金利だし、ユーロ圏ももう少しでゼロ金利だ。金利をいくら引き下げても、お金が市中に流れない。金融機関の財務体質が悪化しているからである。そうすると政府はその銀行に出資(資本注入ともいう)して財務体質を少し好転させ、市中にお金を長そうとする。日銀が銀行の保有株を買ったり、企業のCPを買ったりするのも同じ理由である。
一方で政府は、アメリカは7870億ドルの景気対策法が議会を通過し、オバマ大統領がサインした。しかしアメリカは2009会計年度(2008年10月~2009年9月)の財政赤字が実に1兆3000億ドルにのぼるのだという。これだけの財政赤字を抱えながら、景気刺激のために大幅に財政支出をするというのも大変な話には違いない。
オバマ大統領は、この未曾有の危機に対応するため、共和党、民主党の党派対立を超えた「超党派的」対応を求めたが、もともと小さい政府を志向する共和党議員は、「政府が大きくなりすぎる」「ツケを後世に残す」といってほとんどの議員が反対した。2010年秋の中間選挙までに何らかの成果が上がっていなければ、現在は民主党が多数派を占める米連邦議会の上院・下院もどう転ぶかわからない。もし議会の勢力がひっくり返ったら、オバマ大統領にとっては大きなピンチになるだろう。
問題はそれだけではない。これだけ大きな財政赤字を抱えると、その赤字を誰が埋めるのか(つまり国債を誰が買うのか)という問題がより大きな問題として浮上してくる。もちろん日本は今までもそしてこれからも米国債を買い続けるだろうが、もし米ドルの減価を嫌気して、たとえば中国などが買わなくなったらどうなるか。たちまち米国債は金利を引き上げないと消化されなくなり、景気に悪影響を与える。ドルは基軸通貨だから外貨準備としてドルを保有することは理屈に合うのだが、基軸通貨としての役割が小さくなる(ユーロも基軸通貨のひとつになる)といったことが現実のものになれば、基軸通貨に寄りかかったアメリカ経済は一大パラダイム変換を迫られることになるだろう。その移行過程で何か起こるか、その後の世界がどうなるか、それは本当に誰にもわからない。
そうやって考えると、今の危機は100年に一度の危機というだけではない。それこそ世界経済のパラダイム変換という大変化の一環になるのだろうと思う。日本経済もグローバルな経済システムに組み込まれているから、円がまた安くなって、今までのように自動車や電機製品を輸出できるなんて考えないほうがいいかもしれない。企業も、本社を日本に置いて、世界各国に輸出するとか、世界の支社をコントロールできる時代は、終わりつつあるという認識が必要になるのだろう。
もし日本が経済大国で居続けたいと思うのなら、おそらく日本が最もパラダイム変換を迫られる国になると思う。その自覚が日本人の間に広まっているとは思わないが、いちばん欠けているのは、言うまでもなく、政治家である。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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