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コラム 政治・経済

2008年10月31日

金融危機の泥沼2

世界経済を脅かしている金融危機。欧米政府や中央銀行を中心に、打てる手はすべて打ったように見える。金融機関の「信用」を回復させるために、不良債権の分離、それに痛んだ自己資本を修復させるための公的資金の注入(場合によっては事実上の国有化)だ。これによって、金融機関同士が資金をやり取りする短期金融市場は落ち着きを取り戻したかに見える。しかし危機は実体経済にまで広がっている。

もともとこの問題は、アメリカの住宅価格の下落に端を発しているが、その肝心の住宅市場の底はまだ見えない。指数で見ると、すでに20%以上値下がりしているが、あとまだ10%以上も値下がりすると見る専門家も多いようだ。住宅価格が下げ止まらず、現在は6%をやや超えた程度のアメリカの失業率がさらに上昇してくるとすれば、アメリカのGDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費が落ち込むだろう。

住宅の値下がりが消費を直撃するのは、住宅価格の値上がり分を担保に金融機関からローンを借り、それを消費に回してきたという経緯があるからである。住宅価格の値上がりと、過剰な資金、そして金融技術の発達が結びついて、アメリカは「借金社会」になった。それが日本はもちろん、中国やインドからの輸入につながってきたのである。乱暴な言い方をすれば、アメリカ人が借金して消費してくれたおかげで、中国やインドの経済発展が促されたということができる。アメリカの家計が抱える負債は、1974年当時に6800億ドルだったものが、今日では14兆ドルに達しているとニューズウィーク誌は報じている。この金額はだいたいアメリカのGDPと同じだ。

この借金の負担が軽くならない限り、アメリカの消費が復活することはない。実際、自動車の売上は急減している。住宅市場も縮小傾向から脱却するにはまだ1年や2年はかかるだろうとされている。。
「借金経済」を押し上げたのは、英語で言う「イージーマネー」だが、それを生み出したのは、一時はカリスマ的存在であったアラン・グリーンスパン前FRB(米連邦準備理事会)議長だ。

10月23日、米連邦議会下院で証言したグリーンスパン前議長は、「銀行などの金融機関は、自分たちの株主を守る能力に最も優れているという前提をしたのは間違いだった」と語った。下院の政府改革監視委員会のワックスマン委員長(民主党、カリフォルニア州)は、現在の混乱について、FRB、SEC(米証券取引委員会)、財務相を厳しく批判している。「市場が常に正しいという見方をワシントンで蔓延させた」元凶だというのだ。

とはいえ、問題を個人の責任に帰するのはむしろ誤解を生んでしまうかもしれない。もちろん金融機関の行き過ぎを是正するチャンスはあっただろうが、それを是正すべきだという議論が多数派になったことはなかったからである。

グリーンスパン前議長は、『波乱の時代』と題する本の中で、アメリカの家庭がこんなに借金を抱えているような状態が長続きするはずがないという批判は、何十年も前からあったという。しかし金融の発達が、家計がある程度の負債を抱えているような状態を可能にしてきたのも事実であると指摘している。

問題は、どの程度の負債ならそれを抱えながら、やっていけるのか、経済全体の成長率の関係がどうなるのか、そしてその借金をいったい誰が融資するのか、ということだ。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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