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第5回「今後の社員育成の在り方」
コロナ禍も落ち着き、世の中もほぼ平常運転に戻りました。企業研修の現場でも、一時期はほぼオンライン研修だったのが、いまは対面の研修も戻ってきています。しかし、以前のように「基本はリアル」ではなく、目的やニーズによってリアルとオンライン研修の使い分けがされるようになってきています。会社の規模がある程度大きくなり、日本各地に支所があったりする場合、いままでわざわざ人を一か所に集めて研修をしていたのを、目的によってはオンライン研修で、というケースが増えています。今後、私たちはどのように研修を実施し、社員を育成すればよいのでしょうか。
目的によって手段を変える
たとえば社内での資格試験のための研修、業務知識などを覚えるなどいわゆる「知識の伝達」の場合はオンライン研修が望ましいでしょう。この目的の場合は、受け手はあえてその場に行く必要もなく、場合によっては内容を録画しておけば、好きなときにそれを受けられる、という、時間と場所に制約されない、柔軟な研修の受け方ができるようになりました。
一方で、横のつながりを作りたい、仲間意識、帰属意識を深めたい、コンセプトを共有したい、チームワークの向上を図りたいといった場合には、対面研修がおすすめです。オンラインでは個々に情報をインプットすることはできますが、言語化できないその場の臨場感、人と人がリアルで対面したときに感じるたくさんの情報(相手の熱意、やる気など)などは同じ場にいないと共有できません。たとえば音楽のコンサートを想像してみてください。もちろん映像と音で自宅にいながらその音楽を楽しむことはできますが、やっぱりコンサート会場にいって、歌い手と多くの聴衆と一緒に盛り上がるあの臨場感は自宅では得られないものです。仲間同士の距離も同じです。もちろんオンライン会議の画面で、何人もの顔が並び、カメラとマイクごしにコミュニケーションをとることはできます。でも本当に深く相手を知ろうと思ったら、リアルで対面しているほうが交換する情報量は多く、より短期間で相手を知ることができるはずです。
地域間格差の壁がなくなる
全国に支店がある大手の某証券会社で、研修をさせていただいたときのこと。北は北海道から南は沖縄まで参加者がいらっしゃいました。事務局の方いわく、これまではなかなか地方の人が研修を受ける機会がなく、どうしても都市部の職員さんと比べるとそうした研修格差があったが、こうしたオンライン研修ができるようになったおかげでそれが解消された、とのことでした。確かに、端末の前にいれば、東京でも沖縄でも条件は同じです。こうして研修の機会が平等に提供されるようになったのは、オンライン研修のメリットですね。
今後、人の育成はどうあるべきか
このように手段が多様化したいま、研修をどう行っていけばいいのでしょうか。私がもし一企業の研修担当なら、オンラインとリアルを組み合わせたハイブリッド研修を設計します。入社したての新人へのオリエンテーション、チームワークを高める、など人の交流やコミュニケーションを重視した内容では対面研修、業務内容や資格試験の知識の吸収の場面ではオンラインを使います。入社式や年に一度の総会、など節目のイベントは、できるだけリアルの集合研修で。やはり最初、会社になじみ、仲間と打ち解けるには、リアルでの対話が有効ですね。
また入社一年目で新人が全国に散らばっているような場合は、頻繁に集まるのは難しいので、オンライン上でのグループディスカッション機能などを使ってのコミュニケーションを随時とっていきます。横のつながりや、自分だけじゃないという安心感は、彼らにとって仕事を続けようという大きなモチベーションになるのです。
知識と人間性の二面が大切
人を育成する際、知識のインプットも大事ですが、それと同じくらい人としてどう扱うかが大切になってきます。仕事を遂行していく上でのノウハウをインプットしていくことも大事ですが、同時に相手は人間という社会的動物です。人との関係性がうまく作れれば、より頑張ろうと思いますし、認められれば嬉しい。孤立すれば不安にもなるし、放っておかれればマイナス思考が働いたりもします。上司のメッセージや仲間の頑張りに奮い立つこともあれば、オンライン越しのちょっとした上司の言葉で傷ついたりもするのです。
コロナ禍になって、働き方が自由になり、会社に束縛される時間が減った半面、放っておかれる時間も増え、会社への帰属意識も薄まって、離職していく人も増えています。またチームワークを発揮できる土壌を作り切れず、個人プレーはできてもチームでの効率が上がらない問題もよく聞かれます。
今後、社員の育成を考えていく上では、いま一度、相手は人という社会的生き物であることを理解し、孤立させず、認め、話を聞くという基本を忘れないようにしたいと思います。
【まとめ:今後の社員育成の在り方】
今後の社員育成は…
- 目的によりオンラインとリアル研修を組み合わせたハイブリット型
- 知識の伝達はオンラインで
- 人同士のつながり、コミュニケーションの醸成、理念の共有などはリアルで
- 人間的に接する…社会的動物としての人であることを意識する
(孤立させない、仲間とのつながり、気にしてあげる、褒められればうれしい、など)
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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