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コラム 環境・科学

2015年08月10日

原油価格の動向

 近年、世界の原油価格は激しく変動しています。エネルギーの96%を海外に頼っている日本においては原油価格の動向は極めて重要です。原油価格の推移を振り返り、将来を展望してみます。

■原油価格
 世界の海運において約2/3は原油等のエネルギーを運んでいると言われています。売上額が上位6位までの世界の企業の内、5社は原油等のエネルギー企業です。エネルギー産業は世界経済の中心で、原油価格の変動は世界経済の動向を知るうえでも極めて重要です。
 一般に原油価格は1バレルあたり何ドルかで示されます。バレルとは樽の意味を持ちますが、大きさは約159リットルです。原油価格には先物価格と現物の取引におけるスポット価格があり、ニューヨーク原油先物、イギリスのブレント原油先物、ドバイ原油・オマーン原油のスポット価格が三大指標です。これらの三大指標は連動します。
 暖房の燃料や工場等の熱源の燃料は石油とガスは互いに代替しうる関係にあります。従って、ガスや石炭などのエネルギー価格も原油価格に連動して変化します。
 原油価格は基本的には市場経済により需要と供給のバランスで決まり、需要面では世界経済の景気動向やガソリンや燃料、プラスチックなどの石油製品の需要動向が影響し、供給面では産油国での政治動向、戦争や紛争等が影響します。また、近年、原油は投機の対象になり、価格の急激な高騰が起こることもあります。図1に世界の原油価格の推移について示します。

                        図1 原油価格の推移 (資料:経産省)

■石油危機による高騰
 1973年の第四次中東戦争により第一次石油危機が起こりました。中東戦争とはアラブ諸国とイスラエルの戦争です。石油危機はオイルショックとも呼ばれます。第一次石油危機によって、原油価格が1バレル3.01ドルから11.65ドルへ引き上げられました。
 当時、日本はエネルギーの大半を中東に依存していました。アラブの産油国はイスラエル支援国に石油禁輸措置をとったため、中立の日本は三木武夫副総理を中東諸国に派遣して、日本はイスラエル支援国ではないと説明に努めました。この日本の姿は土下座外交と揶揄される場合もあります。
 1979年のイラン革命により第二次石油危機が引き起こされました。原油価格は1バレル34ドルまで高騰しました。イランから大量の原油を購入していた日本は原油の輸入が逼迫しました。
 戦後、世界の奇跡と呼ばれる経済発展を成し遂げて来た日本ですが、第一次、第二次石油危機によって経済は大打撃を受け、日本の高度経済成長は終焉を迎えました。石油危機の辛い経験をした日本は中東の石油依存から脱却を図りました。当時エネルギーの75%は石油に依存していましたが、日本はエネルギー源の多様化に努め、天然ガスの利用や原子力発電の推進を図り、2010年の時点では石油への依存度は40%まで下がりました。
 イラクのクェート侵攻による1991年の湾岸戦争で原油価格は1バレル40.42ドルに上昇しました。その後2000年頃までは、原油価格は1バレル20ドル前後で推移しました。

■投機による高騰
 2001年9月11日の米国同時多発テロにより原油価格は一時的に高騰しました。多発テロにより世界経済は停滞しますが、中国の原油需要の増加、世界経済の回復により原油価格は徐々に上昇し始めます。株価も上昇しましたが、株価が頭打ちになりますと世界の金融マネーが原油の投機に回りました。その結果、2008年には原油価格は1バレル145ドルまで高騰しました。過去の原油の高騰は、中東における政治の不安定や戦争、紛争が原因でしたが、2008年の高騰は世界のビッグマネーの投機という新しい形によるもので、三次石油危機と呼ばれることもあります。第三次石油危機の原因は投機の他、中国やインドなどの新興国の経済発展による原油需要の増加、地政学的リスクを背景にした原油先物市場における思惑買い、産油国の生産能力の停滞などの要因も加わっております。
 145ドルまで高騰した原油価格も、その直後に起きたリーマンショックにより一気に1バレル35ドルまで下落します。その後、2010年のチュニジアのジャスミン革命に端を発したアラブ諸国の民主革命や紛争、暴動の多発により原油価格は1バレル110ドル程度まで高騰しました。

■原油価格の現状と展望
 1バレル100ドルを超えていた原油価格は2014年7月頃より下落しはじめ、現在は50ドル前後で推移しています。内乱や戦争で生産が停滞していたリビヤやイラク等の原油生産が回復し、国の復興のための外貨を稼ぐために増産を行っていることや、ウクライナ問題で経済制裁を受けているロシアが外貨を稼ぐために増産していることなどが大きな要因です。
 原油生産がダブ付いて価格が低下した場合は、以前は世界一の生産国であるサウジアラビアが減産して価格調整を行っていましたが、現在はそのような措置は取られていません。中東以外での原油の生産や天然ガスの生産が増え、もはやサウジアラビアに価格調整の力がなくなっているかもしれません。

 さて、かつては世界の原油の消費を先進国が半分以上を占めていました。現在では新興国と途上国が半分以上を占めており、これからはその割合は一層増加していきます。中長期的な原油価格は新興国の成長に伴って上昇傾向が続くものと考えられ、エネルギー資源が乏しく円安下の日本は長期的な厳しいエネルギー状況を覚悟しなければなりません。
 東日本大震災以降、日本の電気料金は約30%上昇しており、特に経済的弱者の方々の負担は大きくなっています。日本のエネルギー政策はどうあるべきか、そろそろ冷静に考えるときが来たように思います。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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