現在日本では半導体工場の建設ラッシュが進んでいます。その主たる原因は中国をとりまく政治的、経済的な情況の変化です。日本は米国の対中国政策に歩調を合わせるとともに、日本自身が持つチャイナリスクの回避に努めています。今回は中国をとりまく世界情勢と日本の半導体政策の動向についてふれます。
日本の半導体工場の建設ラッシュ
近年日本は自動車や機械など付加価値の高い製品の製造にシフトしてきましたが、現在日本では半導体工場の建設ラッシュが続いています。台湾のTSMCが熊本に半導体工場を建設していますが、建設費1兆円の半分近くを日本政府が補助しています。さらに二つ目の工場の建設が計画されています。また、日本の半導体メーカーのラピダスが北海道千歳市に新工場の建設を進めています。そのほか、宮城県、広島県等でも半導体工場の建設が進められています。
これらの背景には、コロナ禍やウクライナ戦争等による厳しい世界経済の状況があります。さらに、中国が独自に推し進める政治および外交が国際社会に大きな影を落としている世界情勢があります。新疆ウイグル自治区における人権侵害、香港の民主化弾圧、ミャンマーの軍事政権支援、ロシアのウクライナ侵攻に理解を示す、力による南シナ海への海洋進出等は、国際社会から大きな非難を受けています。
中国に対しては米日欧で政治的、経済的に様々な対抗措置をとっています。中でも、半導体。ITCに関する措置が、今日本で進められている新工場の建設ラッシュの大きな要因になっています。
日本の産業界の視点からは、近年発生した世界的な半導体不足や納期遅れに対処するために、また中国による台湾有事が発生したときに備えて、国内での半導体生産が望まれます。日本の半導体戦略は、当然ながら地政学的に中国の動向と関連しながら展開されていくことになります。以下では中国をとりまく国際情勢をとらえ、今後を展望いたします。
米中貿易摩擦の経過
世界経済に対する中国の基本戦略は次の通りです。中国は対外開放路線を継続しつつ、内需を拡大することで自国の巨大市場の魅力を増やして、外国の投資や技術を引き付ける政策を進めています。自主的にコントロール可能なサプライチェーンの能力強化として、サプライチェーンの主要部分は国内に留めておくなど核心技術の国産化を推進しています。こうして、外国企業の中国依存を強化し、サプライチェーン断絶に対する強力な対応策力を構築しています。
このように自国中心の経済政策を推し進める中国は、いずれは国際的な経済摩擦を招くことは十分に予測されたことです。2017年から米中貿易摩擦が始まりました。当時、中国から米国への輸出総額は5,050億ドルで、米国から中国への輸出総額は1,300億ドルでした。米国の中国に対する基本的要求は貿易の不均衡の是正です。米国は中国に対して、米国製品の輸入を増やしたり、米国への輸出品は米国国内で生産するなど、また中国の政治と経済がからんだ弊害の是正などを強く求めました。
しかし中国は米国が満足するような是正は行いませんでした。そこで、当時のトランプ大統領は2018年7月、中国からの340億ドル分の製品への関税を25%に上げました、中国は報復として、米国からの340億ドル分の輸入製品への関税を上げました。その後、両国は大半の輸入品に対して25%の関税をかけるに至っています。
新型コロナウイルス感染症と中国武漢
近年のサプライチェーンの乱れ、物価高、原油高、円安などの原因の元はコロナ禍です。当時のトランプ大統領が強く指摘した、中国のコロナ禍の責任について以下に触れます。
中国の武漢で発生したといわれるコロナ病原体のウイルスはコウモリで発見されたウイルスに一番近いと確認されています。コロナの感染源はコウモリであり、タケネズミやアナグマ、ヘビ、センザンコウなどの野生動物を介在して人に感染したと見られています。これは2002年に中国で発生したサーズの感染症と同じことの繰り返しです。タケネズミなど上述の野生動物は中国では今も食されています。
サーズ感染症発生の折に、国際社会は中国に対して、「飼料管理」「健康管理」「衛生管理」された、牛、豚、鶏などの肉を食べることが望ましいと強く指摘しました。しかし、中国は効果ある改善は行わず、結局今回のコロナ禍を引き起こした訳です。中国が軍備増強や海洋進出などに注力している限り、サーズやコロナ類似の感染症が、10年後、20年後にまた中国から発生する可能性があります。企業はコロナ禍を振り返り、その厳しい経験を教訓として次のパンデミックに備えておくことが大切です。
米中貿易摩擦の激化と半導体
コロナ禍を経て米中貿易摩擦は一層激化しています。米国による中国への輸出管理は、個別企業向けから中国企業全体向けへと対象を拡大しています。トランプ政権下で個別企業向けの輸出規制の措置として、中国の半導体関連企業のファーウェイや清華紫光集団、SMIC等を輸出制限企業リストへの追加、ファーウェイ等に対する外国製品規則の強化、先端性の高い半導体製造装置のSMICへの輸出規制等が実施されました。
引き続いて民主党のバイデン政権下で、中国企業全体への輸出規制措置として、AI処理やスーパーコンピュータに利用される半導体や、先進的な半導体製造に利用される半導体製造装置等の対中輸出管理措置が実施されました。これらの規制においては、一定性能以上のスーパーコンピュータに利用される一定の半導体や、一定性能以上の製造に用いられる全ての半導体製造装置の輸出を管理対象とするなど、規制の範囲は極めて幅広いものとなっています。
日本は基本として中国に対する対抗処置を米国と歩調を合わせて行っています。また、世界経済はコロナ禍の様々な影響をいまだに受けています。その中で、株価の上昇に見られますように日本と米国の経済は好調です。順調な日本経済の中で見逃しがちですが、今日本は中国をとりまく激動の渦の中にあります。いわゆるチャイナリスクを避けるために、半導体の国内生産のみならず、中国に大きく頼っている自動車や機械の部品についても、国内生産が進むか、もしくは生産が他の国にシフトしていくことでしょう。
中国を取り巻く世界情勢の急激な変化は、日本の地方経済にも影響を及ぼしています。国内のサプライチェーンの再構築や、外国人も含めた労働力をいかに確保していくかなどの課題に真剣に取り組み、製造業を中心とした日本の産業がこれからも力強く発展していく事を期待いたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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