日本の産業界を大きく揺るがす危機的状況として警鐘が鳴らされている物流の2024年問題は、産業界にとどまらず、国民生活から個人の消費に至るまで大きな影響を及ぼします。今回はこの問題についてふれます。
物流の2024年問題
物流の2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転の業務に対し、年間の時間外労働時間の上限が960時間に制限されることで発生する諸問題の総称です。
この問題の経緯ですが、2019年4月1日に施行された働き方改革関連法では、次の3つをポイントとしています。
- 年次有給休暇の時季指定
- 時間外労働の上限制限
- 同一労働同一賃金
上記の内、時間外労働の上限規制適用が猶予、または除外された5つの業種は以下の通りです。
- 自動車運転業務
- 建設事業
- 医師
- 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業
- 新技術・新商品開発等の研究開発業務
1~4の業種の猶予は2024年3月末までであり、その中で喫緊の対策課題として1の自動車運転業務の猶予切れが物流に大きな影響を与えようとしています。
トラックドライバーの現状
トラックドライバーを全産業で比較しますと、年間労働時間は約2割長く、年間所得額は約1割低く、有効求人倍率は約2倍です。トラックドライバーの長時間労働の主な要因としては、長時間の運転時間、荷待ち時間、荷役作業等があげられます。
国内貨物のモード別輸送量はトンベースで自動車が9割超、トンキロベースでは自動車が約5割、内航海運が約4割、鉄道が5%程度です。
物流業界は現在、担い手不足やカーボンニュートラルへの対応など様々な課題を抱えている中、時間外労働の上限規制の適用が間近に迫っています。併せて、厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間を定めた改善基準告示(貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の対象)により、拘束時間等が強化されます。この結果、我が国は、何も対策を講じなければ物流の停滞が懸念される、いわゆる2024年問題に直面しています。
全日本トラック協会のアンケート調査の結果によりますと、約29%(長距離輸送では約39%)が、2024年以降規制対象となる時間外労働が年960時間超となるドライバーがいることが判明しています。
物流の2024年問題が及ぼす影響
具体的な影響例をあげますと、東京と大阪間の距離は550kmで、実態拘束時間合計は12.5時間/日であり、ドライバー1人で対応が可能です。しかし、2024年4月の働き方改革改正法の施行後は、東京・大坂間の実態拘束時間合計は12時間/日となり、時間通りに届けるためには2人稼働が必要となります。1人稼働の場合には延着の可能性があります。
国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合には、営業用トラックの輸送能力が2024年には14.2%さらに2030年には34.1%不足する可能性があると試算しています。
物流の2024年問題の影響を以下に個別にあげます。
- ドライバーにおいては、労働時間の減少、トラック輸送のリソースの減少、モノが運べなくなるおそれ。
- 運送会社においては、ドライバーの収入減少、ドライバーの転職や退職の増加、結果、トラックの稼働時間の減少、売上の減少。
- 荷主においては、長時間仕事の担い手の減少、運賃の値上げ、物流コストの増加。
- 一般消費者においては、当日、翌日配達の宅配サービスが受けられないかもしれない、水産品、青果物など新鮮なものが手に入らなくなるおそれがあります。
再配達の削減への取り組みとして、トラック事業者から消費者にお願いすることは、確実に受け取れる日時や場所の指定、宅配ボックスやロッカーの利用や置き配の推進、まとめ買いによる運送回数の削減などがあります。
物流革新に向けた政策
荷主、事業者、一般消費者が一体となって我が国の物流を支える環境整備について、関係行政機関の緊密な連携の下、政府一体となって総合的な検討を行うため、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が2023年3月31日に設置・開催されました。
2023年6月2日には、同会議において、1.商慣行の見直し、2.物流の効率化、3.荷主・消費者の行動変容について、抜本的・総合的な対策を「物流革新に向けた政策パッケージ」として決定されました。その内容は以下の通りです。
- 物流DXの推進
・自動運転トラックの実用化に向けた対応(自動運転車用レーンの設定等)
・高速道路上の車道以外の用地や地下を活用した物流専用の自動輸送の調査 - 物流拠点の機能強化や物流ネットワークの形成支援
・三大都市圏環状道路等の高規格道路整備による物流ネットワークの強化
・TDM施策など交通容量を有効活用する取組の推進
・SA・PAや道の駅における大型車駐車マスの拡充
・SA・PAにおける有料による駐車マス予約制度の導入
・PPP手法等による休憩施設や仮眠施設の拡充
・スマートICの整備推進
・地方公共団体が行うアクセス道路の整備に対する支援
・中継輸送の実用化・普及に資する拠点の整備等の推進 - 労働生産性向上に向けた利用しやすい高速道路料金の実現
・大口・多頻度割引の拡充措置を継続、割引制度の厳格な運用 - 特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上
・通行時間帯条件の緩和、道路情報の電子化の推進等 - ダブル連結トラックの導入促進
・運行路線の拡充等に向けた調整、ダブル連結トラックに対応した駐車マスの整備
担い手不足の日本の社会
今回はトラック運転手を中心に触れましたが、バス運転手やタクシー運転手の不足も既に発生しており、バス路線の廃止や観光地のタクシー不足は大きな社会問題となっています。
担い手不足はドライバーだけではありません。輸送分野のほか、建設・土木、生産、販売、介護、接客・調理、医療も担い手不足が危惧されており、2040年に担い手不足が日本で1100万人余りに上るとした予測もあります。
日本社会の担い手不足は急に発生した問題ではありません。人口動態調査から、かなり以前から労働者不足が懸念されていましたが、何ら有効な対策を採られず今日に至っています。
上述の「物流の効率化の具体的な施策」で、2024年問題が解決できるとは思えません。労働者不足は日本だけのことではなく、日本以外のG7の国々は移民を受け入れています。米国は移民大国ですが、ドイツやフランスも移民の受け入れには積極的で、人口の約四分の一が移民といわれています。両国の発展は移民によるところが大きいと言われています。
日本では移民に対して抵抗感を持つ人が多いですが、深刻な人手不足や急速な人口減少に直面している今、そろそろ移民受け入れを一つの選択肢として真剣に解決策を考えるときであると思います。日本社会の限りなき発展と輝かしい未来をお祈りいたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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