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第11回「人を動かす力」
さて、このテーマでの連載もあと2回となりました。「アフターコロナ時代の新しいスタンダード」というテーマで書きつづってきましたが、今回は「人を動かす力」という、古くて新しいテーマにしました。
相手の中に入って、思いを想像する
最近の研修を通じて、どこにいっても「上司がどういまの若い人たちに動いてもらうか」「また部下がどうすれば上司に思いを伝えられるか」という悩みをさんざん聞いてきました。いままでもこうした悩みはあったはずですが、ここ数年、コロナ禍を経てなお一層、この両者のギャップというのが浮き彫りになり、どうにもならない時代に入ってきているのだと感じています。これにはやはり、自分の固定観念を捨てて相手の懐に入り、相手の価値観や希望、モチベーションの源、ひいては人生観などを理解して、相手の思いに沿うような声かけ、指導をしなくてはいけない時代が来たのだと思います。いわば人間のコミュニケーション力の進化を問われているわけです。
若い人に気持ちよく動いてもらうには
まずは相手をよく観察すること。そしていいところを見つけていきましょう。悪いところではありません。いまのリーダーの役割は能力を引き出してあげることなのです。どんな仕事が向いているのか、ほかの人と比べて適性のある分野はどこか、そういうスタンスに立つことがとても大事です。
また相手の価値観を否定せず、相手が納得する形を見つけることです。仕事が終わっていないのに定時になったからと帰る部下に腹を立てるのではなく、ならばどうしたら定時までに終わるか、一緒に方法を考えることです。また自分から聞いてこないのは、やる気がない証拠だと決めつけず「どこまでならできる?ここは手伝おうか」と相手のレベルにあった助け船を常に出し続けることです。
そして自分の雰囲気も極力ソフトに。昭和の時代は高倉健さんみたいな方が理想だったかもしれませんが、いまそんな現れをしていたら、怖がって誰も近づいてきません(失礼!)。
「俺に話しかけるな」オーラを出しているなと自覚しているなら、できるだけ優しい雰囲気を作り出し自分から「おはよう」と話しかけてみてください。いまの若者は、昭和の世代よりも間違いなく進化しています。IT環境も情報量もまったく違い、新しいテクノロジーをうまく使いこなしています。適切な声かけをすれば、秘めた力を発揮してくれるはずです。
上司に思い通りに動いてもらうには
さて、若い人も「上の人とはうまくいかない」とコミュニケーションを最初からあきらめず、どうしたら意思疎通がとれるかを考えて行動してほしいのです。わからないところがあるなら、どんどん質問しましょう。タイミングを間違わなければ、質問は歓迎されるはずです(もちろんまずは自分で考えてからですが)。また「自分はこんなことに興味がある」と常に伝え続けましょう。上司は下の人からの自己表現、自己開示が少ないと、どんな人かわからず対応に苦慮しています。どんどん自分を発信してほしいものです。昔はそういう部下がたまにいて「おもしろいやつだ」と可愛がられたものですから。
年上の部下に気持ちよく動いてもらうには
最近はシニアの再雇用という形で、同じ職場で、つい先月まで自分の上司だった人が、来月から部下になるということも珍しくないようです。「年上の部下」というこの矛盾にどう対処したらよいのでしょうか。
基本的には、やはり年長者ですので敬意、敬語をもって接するべきです。お願いするときも「~さん、これやっていただけますか」と丁寧に。ここは日本の文化のプロトコルですし、年長者ほどそれを大切にしてきていますので、そこは守りたいものです。もし仕事にミスがあったり、手抜きがあった場合は、相手の対面をつぶさぬよう別室に呼び、「~さん、このやり方だと違っています。改善していただけませんか」と事実を指摘しましょう。感情的になって「なぜできないんですか?」と人格を否定してはいけません。相手のこれまでの経験に敬意を払い、適宜意見を聞きながら、リスペクトの気持ちを持ちましょう。年配者はテクノロジーには疎くても対人スキルにおいては学べるものがあるはずです。
相手が誰でも本質は同じ
このように、相手が部下でも上司でも年上の部下でも、大事なことはすべて同じ。それは「相手の心の中に入って何を大切にしているかを察し、それに沿うように声をかける」ことなのです。これは自分中心に生きている人にはできません。常に相手を思い、相手の価値観を理解し、そこに合わせるという配慮ができるかどうかなのです。これこそ、いまの時代の「人」すべてに求められているスキルなのです。そしてこれができれば人が動いてくれるはずです。
【まとめ:人を動かす力】
- 相手の心の中に入って何を大切にしているかを察し、それに沿うように声をかける
- 若い人の価値観を否定せずどうすれば時間内に最大を得られるかを考える
- 年配者は理解できないとあきらめず、積極的に話しかけていく
- 部下が年上の場合は、リスペクトの気持ちを持ちながら、してほしいことを伝える
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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