ヨーロッパで啓蒙思想が主流となっていた17世紀後半から18世紀にかけての時代は、啓蒙時代と呼ばれます。フランス啓蒙思想の代表的な成果のひとつ『百科全書、あるいは科学、技術と工芸の理論的辞書』は、18世紀後半に編集された大規模な百科事典です。この事典は、18世紀中頃の進歩的知識人を総動員して刊行され、近代社会の幕開けを告げる出来事でありました。
人類が地球温暖化という未曽有の危機に直面したとき、私は対策技術の研究と並行して、温暖化問題のハンドブックや地球環境工学に関するハンドブックなど、多数の環境関連書籍の企画・編纂を行いました。今回はその話をいたします。
地球温暖化問題ハンドブックの発刊
1988年に地球温暖化問題が世界的な大関心事になりました。温暖化とは、大気中のCO2等の温室効果ガスの濃度が増加して、地球大気の温度が上昇することです。温暖化の進行により、多数の重大な影響が予測され、地球の存亡にもかかわる大問題と世界的に認識されました。
このような事態に直面し、温暖化対策技術の研究者、技術者らは、温暖化から地球と人類を救うのだという、溢れるような情熱を持って対策技術の研究開発に取り組みました。最大の課題は、CO2の発生は石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料の消費によるものですが、化石燃料の利用を停止した場合は、人類社会は成り立ちません。当時、地球温暖化に対する根本的な対策法については直ぐには有力な対策方法は見つからず、世界全体で手探りの状況でした。
このような時こそ、地球温暖化に立ち向かう人たちに極めて重要な情報を与えうる百科事典的な専門書の刊行が必要と私は強く感じました。そこで、私は企画・編集の責任者として、『地球温暖化問題ハンドブック』の刊行に向けての作業を始めました。もちろん私自身の研究業務と並行して進めました。地球温暖化問題ハンドブックの企画・編集の中で、次の2点を特に重要視して行いました。
(1)温暖化に関する基礎情報を含める
(2)あらゆる温暖化対策技術を網羅する
特に(2)については、様々な可能性がある対策技術がある中で、それぞれが妥当な技術か、実用化できる技術かについて評価が十分に行われていない場合でも、実用化の可能性があるかぎり排除せず、出来うる限りハンドブックに含めました。当時は個別に判断して取捨選択をするときではないと判断し、前広に編集しました。
多くの執筆者の協力を得て、地球温暖化問題ハンドブックは1990年11月に刊行されました。当時このようなハンドブックは、日本はもとより世界にも例はありませんでした。地球温暖化という重大な危機に直面して、対策技術の研究は日本が世界を大きくリードしていました。また、世界の日本への期待は大変大きいものでした。
この地球温暖化問題ハンドブックの刊行には、小宮山宏先生には監修として、柳澤幸雄先生には編集委員の一人として、協力を頂きました。
地球環境工学ハンドブックの編纂
地球温暖化が世界的に大きな関心事となった1988年以降、他の地球規模の環境問題にも世界の関心の目が向けられました。それらは、オゾン層の破壊、熱帯雨林の破壊、砂漠化問題、大気・水質・土壌汚染、酸性雨問題、生物多様性問題、エネルギー問題、食糧問題、人口問題などです。 「地球規模の環境問題」も、やがては「地球環境問題」と短縮して呼ばれるようになりました。
地球環境問題の解決には、地球規模で問題を考え、地球規模で対策を実施しなければなりません。当時そのようなことが行える学問領域も技術領域もありませんでした。もちろん、気象学などでは地球規模で現象を捉えますが、地球規模で対策を行うというものではありません。必要なものは地球を救うことのできる工学、エンジニアリングであると、私は強く確信しました。そこで、このような領域を創成する一助となる、もしくは先駆となるようなハンドブックの企画・編纂を行う事を私は決意しました。
ハンドブックの名称は地球環境ハンドブックではなく、『地球環境工学ハンドブック』としました。これは、機械工学ハンドブック、電気工学ハンドブック、土木工学ハンドブックのように産業や工業の基盤を支え、経済の振興や社会の発展に大きく寄与することを期したからです。
上述の様な観点で、私は地球環境工学ハンドブックの企画および編纂を進めました。多くの専門家の協力を得て、地球環境工学ハンドブックは1991年11月に刊行されました。このように地球環境問題を集大成したハンドブックは、世界に先駆け日本から発刊することができました。なお、地球環境工学ハンドブックは、日本における理工学書を対象とした栄えある技術・科学図書文化賞を受賞しました。
あの時代の情熱を原点として、温暖化に立ち向かう
前述の地球温暖化ハンドブックや地球環境工学ハンドブックのほか、環境年表、地球環境データブック、個々の専門書の企画・編集・執筆を私は行いました。これらは、多くの専門家の協力あって、成し得たことです。
私の大学の学部・学科の先輩である小宮山宏先生(第28代東大総長)、同じく柳沢幸雄先生(ハーバード大学、東京大学教授)の両先生から知己を得たことは、私にとってはこの上ない理運でした。なお、両先生には温暖化問題の対策技術であるCCSの研究等においても連名研究者としても協力を頂きました。
1988年に私が地球温暖化問題の解決に正面から取り組んで、既に36年が経ちました。1988年以降、私は温暖化対策に関する多くの国際研究集会や国際会議に出席しました。これらの研究集会や会議には多くの日本人科学者や技術者が出席し、常に会議を日本人がリードしていました。人類の存亡にもかかわる地球温暖化を前にして、日本の科学者や技術者は、今回こそour turn(我々の出番だ)という全身から溢れ出るような意欲を感じました。
今、温暖化対策について、CCS技術を中心に日本が世界をリードしています。しかし現在、日本では温暖化による気候変動で、線状降水帯や豪雨、洪水が多発して大きな被害が毎年出ています。地球環境問題、特に温暖化問題に関して、1988年から続く日本の対策法の研究と技術開発が一層進展し、近い将来に地球温暖化問題が解決することを切に期待いたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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