SDGsの達成のため、農業の分野で様々な取り組みが進められています。農業は「食」と密接な関係にありますが、SDGsでは環境や社会、経済の課題とも深く関係しています。今回は、農業とSDGsについて触れてみます。
SDGsの意義と17の目標
SDGs(エスディージーズ)とは、2015年に国連総会で採択されたSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)のことで、17のグローバル目標と169の達成基準からなります。SDGsは人類が直面する様々な問題を解決し、将来のあるべき地球社会の実現をめざすものです。SDGsの17の目標は次の通りです。
SDGsの17の目標
- 貧困をなくそう
- 飢餓をゼロに、持続可能な農業を
- 人々に保健と福祉を
- 質の高い教育をみんなに
- ジェンダーの平等
- 安全な水とトイレを世界中に
- エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
- 働きがいも経済成長も
- 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 人や国の不平等をなくそう
- 住み続けられるまちづくりを
- つくる責任つかう責任
- 気候変動に具体的な対策を
- 海の豊かさを守ろう
- 陸の豊かさも守ろう
- 平和と公正をすべての人に
- パートナーシップで途上国支援
SDGsの農業への期待と役割
SDGsの観点から農業への期待と、農業の役割は次の通りです。
- 食糧の供給(社会):生産量の安定化と持続可能な農業、農作物の安全性の向上や品質の確保、自然災害に強い農作物の栽培などです。
- 環境への取組み(環境):農業は、環境を保全し、国土の土台を支えるものです。
- 生産者の生活・雇用面(経済):農業従事者の高齢化や後継者不足などの解決、農業経営への支援、就農を希望する人への雇用機会をつくります。
さて、SDGsの17の目標において、目標2の正式なタイトルは「目標2. 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」です。目標2は日本では通常、「飢餓をゼロに」と簡単に表されますが、SDGsの目標2においては、農業に関する記述が沢山ありますので、「飢餓をゼロに、持続可能な農業を」と表した方がより的確ではないかと思います。
SDGsにおける農業の重要性や役割を理解するために、目標2に記述されているいくつかの達成基準を次に紹介いたします。
- SDGs目標2の2.3節:2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。
- SDGs目標2の2.4節:2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭な農業を実践する。
- SDGs目標2の2.a節:開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。
農業におけるSDGs取り組み事例
日本では農業におきまして、様々な分野で多数のSDGs活動が実施されています。幾つかを以下に紹介いたします。
- 1.ふくしま未来農業協同組合(福島県福島市)の取り組み
ふくしま未来農業協同組合は、コロナ禍で困窮した学生へお米の提供や農作業アルバイトの紹介、地域の子どもや高齢者への手作りのマスクの寄贈等を実施しました。また、従来男性が多い職場において、女性の積極的な採用に取り組んでいます。
東日本大震災や台風被害からの生産回復に努めた結果、日本一の夏秋キュウリ産地となるなど、農業復興を果たすとともに、買い支え運動のふくしま応援隊を通し、風評被害対策を推進しました。
また、地域の企業と農産物の加工や観光分野での連携を強め、業績回復や不安の払拭に尽力しました。国際家族農業年、SDGs等を踏まえ、食、農、環境に関わる地域及び地球規模の課題に対し、原子力災害を経験したJAとしての関わりについて検討を重ね、それを経営理念や事業・活動に反映しました。
こうした活動に対して、日本政府の第4回ジャパンSDGsアワードにおいて、SDGsパートナーシップ賞(特別賞)を受賞しました。 - 2.TABETEレスキュー直売所プロジェクト共同体(埼玉県東松山市)の取り組み
食品ロス削減等を目的に東松山市、㈱コークッキング、東武鉄道㈱、JA埼玉中央、大東文化大学、㈱大塚応援カンパニーの6者が連携しました。埼玉県東松山市周辺5か所の直売所で売れ残った農産物を、当日中に電車で都心に輸送し、顧客に再販売しました。輸送した農産物の一部は子ども食堂へ寄付をしました。
農家の所得向上、電車輸送によるCO₂排出削減に加えて、野菜の輸送及び販売に大東文化大学の学生がインターン生として参加することで、社会問題の解決について実践的に学ぶ機会も創出しました。
これらの活動に関して、第6回ジャパンSDGsアワードにおいて、SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞しました。
SDGs、農業の役割と期待
本来、農業は食料生産や環境保全など、重要な役割を果たしてきました。また、近年はコロナ禍で職を失った人々に働く場を提供したり、農福連携事業を推進するなど、社会に大きな貢献を行ってきています。さらに現在は、農業におけるSDGsの取り組みが様々な成果を上げています。
国連のSDGsは途上国支援が主たる目的です。従って、SDGsの各条文は途上国支援を考えた内容の記述になっております。地球社会の発展にはこれからも農業は極めて重要な役割を果たしていきます。日本のような先進国においては、SDGsのそれぞれの条文の趣旨を理解して、農業におけるSDGsを推進することになります。
農業におけるSDGsの取り組みにより、日本農業とSDGsがともに発展していくことを期待いたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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