アメリカのオバマ大統領は、3月24日に行われた就任2度目の記者会見で、アメリカ経済に「改善の兆し」が見えてきたと語った。端的に言えば、株価が上がったのである。もっともこれで底を打ったとはとうてい思えない。気の早い日本の証券会社のアナリストは「底値が見えた」などと言っていたが、それはあまりにも楽観的だろうと思う。
世界経済はむしろ日に日に悪化の実態が明らかになりつつあるように見えるからだ。それが如実に表れているのがIMF(国際通貨基金)による経済見通しである。IMFは毎年秋に翌年の世界経済見通しを発表している。昨年も同様だが、その時点の主な国・地域の2009年見通しは以下のようになっていた。
アメリカ -0.9%
ユーロ圏 -1.5%
日本 -2.4%
それが1月末には
アメリカ -1.6%
ユーロ圏 -2.0%
日本 -2.6%
と下方修正された。そしてこの3月、IMFは再度下方修正した。
アメリカ -2.6%
ユーロ圏 -3.2%
日本 -5.8%
とりわけ日本については眼を疑うような数字が出ている。財政出動の金額が世界に比べて「出遅れている」ことや、さらに貿易依存が比較的高い、言葉を換えていえば内需主導による成長という構造変化ができていないことなどが勘案されたのだろうと想像する。
これに対して日本政府の公式見通しはいまだに2009年度でゼロ成長である。民間の調査機関は、昨年第4四半期の成長率が-12.1%になったことや、今年第1四半期もさらにそれを上回るマイナスになることが予想されているため2009年度の見通しをマイナス4%前後と大幅に下方修正した。
政府の見通しは当然、どこかで修正しなければならないのだが、問題はこのIMFや民間との数字の「ズレ」が景気対策の遅れという「ズレ」につながっていないかということだ。
たとえば麻生総理は最近の会見で、就任して半年、景気対策に追われてきたと語った。しかし2008年度の第一次補正、第二次補正、そして2009年度予算と「三段ロケットで世界に先駆けて日本が景気回復」とぶちあげたのはそんなに昔の事ではない。その三段ロケットでもいわゆる「真水」部分は12兆円にしかすぎず、失速が目に見えている。すでに内閣府は日本の経済の需給ギャップが20兆円程度に達しているとの数字を明らかにしているため、2009年の補正予算は20兆円から30兆円の規模で組まれるとされている。
しかし大統領選挙というタイミングにぶつかったアメリカでもすでに70兆円におよぶ景気対策を打ち出し、中国は昨年秋の段階で60兆円の対策を発表していた。もちろんこれらの景気刺激策がすべて「真水」というわけでもない。それにいわゆる「ユーロ圏」はアメリカに比べると、財政出動に慎重だ。ユーロ圏での財政赤字に関する制限があるためとされている。それでも世界第2位の経済大国である日本が、この景気対策で出遅れているのは明白な事実だと思う。
日本がそうなったのは、昨年秋のリーマン・ショック以前から、今回の世界同時不況の震源地がアメリカであって、その元となったサブプライムローンの証券化商品に関しては、日本の金融機関の傷が相対的に浅いという当初の認識からなかなか抜けられなかったところに原因がありそうだ。とりわけ10月ごろの麻生総理の発言は、「危機を克服した日本の経験を教えてやる」というような状況認識を著しく欠いた発言が目立っていた(世界から見れば、日本の「失われた10年」はまさに反面教師だというのに)。
麻生政権の「ズレた感覚」が、国民にとって不幸なことは言うまでもない。米政府関係者が言ったという「日本という国は日本人に任せておけないほど重要な国だ」という言葉。ホロ苦くも、この言葉が当たっていると言わざるをえない辛さを麻生総理にわかってもらえるだろうか。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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