「今度の金融危機から、我々は2つの教訓を学んだ。第一は、返済できる以上にお金は借りないこと。そして第二は、世界は依然として安全な水を必要としていることだ」。
これは今日メールで入ってきた、水問題を扱うEUのNGOからのメッセージ。どんな危機が金融界に起きても、決して水問題を忘れてはいけないという強い願いの意味が込められている。そう、世界で何が起きようとも水の確保の問題は消えることはないのだ。
これに代表されるとおり、温暖化問題、貧困問題、水問題、そして広い意味でのCSRなどに取り組んできた世界の人々の間でいま大きな懸念が広がっている。100年に一回と言われる今回の金融危機が、これらの活動に水を差しはしないかドキドキしながら推移を見守っているのだ。
「売り上げが落ちる」、「利益が消える」、「雇用が危ない」…、様々な懸念が経済界に広がっているのは事実。また、自分の生活を守るのが精一杯という人々がたくさんおられるのも事実だが、だからといって経済界全体が、そして社会全体が一斉にこれらの地球社会が抱える問題から手を引いたらいったいどうなるだろうか。温暖化は一層、厳しさを増していくのは火を見るより明らかだ。貧困にあえぐ多くの人々は、さらに厳しい状況に追い込まれ、状況が悪くなり解決が長引く。それだけでなく、解決コストをうんと高めてしまうことにもなりかねない。まさに踏んだり蹴ったり。だからこそ、課題解決のためには決して手を緩めてはならないのだ。
しかし、企業の経費カットの中でCSRが真っ先にやり玉に挙がってしまう。そんなことが日本で始まっている一方で、世界ではそうはさせまいと頑張っている人々も多くいる。いくつか例を挙げよう。
ポーランドのワルシャワで開かれていたCOP14(国連主導の気候変動会議)に向けた閣僚級会合で緊急宣言が出された。曰く、「金融危機は温暖化対策を遅らせる理由にはならない」と。まったくそのとおりだろう。
先般、英国のブラウン首相は内閣改造を行い、新たに気候変動・エネルギー・問題担当大臣を置いたという。同じ内閣で、兄が外務大臣を務めているエド・ミリバンド担当相は金融危機を理由に、環境政策を遅らせるのは間違いだと話していた。
また、これはある米国の金融機関の集まりからの報告。「確かに状況は厳しい。でも、今ここで様々な活動に取り組むことは、かえって他社との差別化に繋がる良いチャンスだ」とも言っている。苦しい時こそ頑張れば競争に勝てるし、社会からの好感度も上がる絶好の機会と捉えているのだ。
では、今回の危機から、われわれが学ばねばならないことは何だろうか。私はこう考えている。それは、「短期主義を捨てて、長期主義で行こう」ということ。金融の世界があまりにもお金儲けに走りすぎた。つまり短期利益を追いすぎた結果が今回の金融危機を招いたとするならば、ここはきっぱりと長期主義に回帰すべきなのだ。つまり、長期の利益こそ、本来社会が求める利益なのだと再確認する時ではないだろうか。「Back to the basics」(原点回帰)が求められている今だからこそ、温暖化や貧困、水など、人間社会の根幹に関わる問題に皆で力を合わせていかなければならないのだ。
かつて、「神よ、我に艱難辛苦を与えたまえ」と言った武将がいた。厳しく鍛えられてこそ自分が成長できる、大きな成功は苦しみの中から生まれる、とでもいうことだろうか。経済危機で苦しいからこそ、基本に立ち返り、本来目指すべきものを追い求める。それが人間の偉いところではないかと考えている。
末吉竹二郎すえよしたけじろう
UNEP金融イニシアチブ特別顧問
東京大学を卒業後、1967年に三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行。1998年まで勤務した。日興アセットマネジメントに勤務中、UNEP金融イニシアチブ(FI)の運営委員メンバーに任命された。現在、アジ…