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コラム 人権・福祉

2009年05月01日

見えないつながり

 うちの三歳半の次男は今、シンケンジャーというヒーローに釘付けとなっている。週1回の番組をビデオに撮り、何度も繰り返し見ては、私にも一緒に見ろと誘われてしまう。ちなみに私の時代は遥か昔の、マグマ大使だった。
 いま彼の生活にとってシンケンジャーの存在は、大げさにいえば生きるチカラになっているようだ。しかしデパートのオモチャ売り場では、そのチカラに困らせられる。まんまとテレビ局とオモチャ会社の策略に負けてしまう。
 ふと思った。直接の関係や知り合いだけが、自分を支えるチカラになっているわけではない。

 この数年、私には三人の尊敬する障害者アスリートがいる。
 一番はプロ野球・横浜ベイスターズの石井投手だ。聴覚障害をもろともせずに、今シーズンはストッパー(試合の終盤を守りきる役目)として活躍している。プロ野球選手となった当初、石井投手は自分の中に障害者としての甘えがあったと語っていた。彼の弱気が原因で敗戦投手となったとき、女房役のベテラン保守から、普通に叱られた。それが石井投手には嬉しくてたまらずステップアップにつながったのだという。そして生まれたのが、彼の武器となる新しい球種のフォークボールだった。
 二人目は、つい先日のボストンマラソンで、女子の車いすで三連覇した土田和歌子選手だ。高校生のとき事故に遭い車イスになった土田選手は、ふとしたことから車いすランナーとしての才能を見出された。その後、長野パラリンピックの中短距離で大活躍し注目される。そして車いすマラソン選手になってからの活躍は目覚しい。たぶん彼女の車いすを整備しているメカニック担当者たちは、F1のそれに似て高い技術で支えているのだろう。
 そして三人目は今年、プロに転向した車いすテニスの国枝慎吾選手だ。これまでの戦歴は華々しいものがあるが、あえて厳しい時代にプロになった国枝選手には、心から尊敬する。察するにスポンサー企業の獲得などは、練習や試合以上の厳しさを覚悟した上でのプロへの転向だったのだろう。

 とうぜんのことながら私は、この三人との面識はない。しかし三人のアスリートの活躍は、私を元気にしてくれる。同じ障害者という枠{わく}にいることが誇らしくなる。しかし大切なことは、彼らの活躍を自分自身に”どうつなげるか”だと思っている。
 ルソーは「生きるとは呼吸することではない 行動することだ」との言葉をこのしている。
 この三人の行動するアスリートたちは、これからも多くの人びとに勇気と希望をもたらすに違いない。

中村勝雄

中村勝雄

中村勝雄なかむらかつお

小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

現在、作家として純文学やエンターテイメント小説、ノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより…

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