12月中旬の打ち合わせ・懇親会は、大変有意義かつ楽しいものであった。その中で特に印象に残っているやり取りを、これからお話しましょう。
(弊社スタッフルーム)
前回の最後に、中継全体についてのエピソードと申し上げたが、中継に関わるスタッフは全体で何人くらいいると思いますか。スタッフは大きく分けて、制作サイド・技術サイド・出演者サイドの3つ。それに制作サイドのプロデューサーをアシストする、マネージャー的役割を担う現地のコーディネーターの方々や、現場でカメラで選手のインタビューやプレーを収録するENGカメラ クルーも加わるので、大体50~60名の規模となる。(全豪の具体的数字は忘れましたが、この程度だったと思います。)
このスタッフの中で、特にアナウンサーとかかわりが深いのが、ディレクターであり、その中で放送席の我々の隣に座って細かい指示をだすのが、フロアディレクター(以下FD)と呼ばれる人たちである。そのFDが必要かどうか、ある状況下ではFDは要らないのではという、条件付ながらFD不要論が議題に上った。テニスの場合、スコアラーはFDが兼ねるケースが結構あったが、放送席には瞬時にゲームスタッツが分かるモニターが設置されていて、スコアラーは必ずしもいなければ出来ないというわけではなかった。
不要論の根拠はいくつかあるのだが、その前段としてまずスコアラーをなくすことが話し合われて、ほぼ決定の方向で進められた。(FDとは別に、スコアラー専門の人を雇っていた。)人員の合理化や予算配分のターゲットの見直し、上記で述べた通り実際いなくてもことが足りる、制作スタッフの業務管理等、私もある部分理解できる理由が並べられた。ここまで書けばお分かりでしょう、私はアンチ不要論側である。
完全には納得の行かない私は、当然反対論を上げた。私の必要論の根拠は、放送席に制作サイドの人間がいなければ、もし機械が故障したときや緊急時に番組全体の判断が出来なくなること。中継サブからの指令は一斉指令 で聞こえてくるが、私や解説者の要求・要望を、中継室に伝えられないこと。なんだかんだ言っても、モニター(機械)ではアナウンサーの欲しているものをすべて汲み取ることは出来ないということ。その辺のところを、まあ申し上げた次第である。
もちろん、中継規模全体を見渡して、必要かどうかを判断するのだから、アナウンサーの希望だけ優先するわけにはいかないのは、明白なことだ。そしてなによりも、この不要論は、アナウンサーサイドから出てきた意見なのであった。斯様に、アナウンサーの中でも、考え方がはっきりと分かれるものなのである。だからこそ、事前の打ち合わせが大切となってくる。
この議論は、予想以上に激論となった。詳細は避けるが、FDは実際の中継では、8割方放送席に就いていた。スコアラーは、大会最後の方でFDが入った。つまり放送席FD二人体制となった。最終判断は、無論プロデューサーが決定した。
今述べたのは、あくまで一つの事例であるが、大方どの中継でもこれと似たようなやり取りが、さまざまなシチュエーションで行われる。そしてもう一つ、この打ち合わせ・懇親会での重要な仕事としては、解説者とのコンビネーション作りが挙げられる。解説者と普段会う機会は、プライベートで友達でもない限り、ほとんど無い。こういった機会を利用して、解説者といろんな話をしてみる。
解説者は何が好きで、何が嫌いか。テニスというスポーツをどうと捉えているか。話題によっての反応はどう違うか。そしてなによりシャベリはどうか。早口か。いったん咀嚼してから話すか。文節は長いか。活舌はいいか。声はよく通るか。まあ、いろいろ観察して、中継のときに、参考とするのである。ただし、普段よく喋るからといって、本番で喋るかというと、必ずしもそうではない。逆の場合もあるので、あくまで参考ということです。
さて、次回はいよいよ実況中継の本質部分に少し触れてみることにする。最初に申し上げたが、実況には5つのパターン・ジャンルがあるが、なにがどう違うか実況の側からお話してみようと思っている。
全豪オープンテニス(BS wowwow 実況)
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(※1) ENGとは、Electric News Gathering の略。中継やニュース取材に使う小型のカメラをこう呼ぶ。
(※2)中継車やサブにいるメインディレクターが直接、アナウンサーや解説者に イヤホーンを通して話しかけてくること。
久保田光彦くぼたみつひこ
フリーアナウンサー
立教大学卒業後、東京12チャンネル(現・テレビ東京)入社。スポーツ実況のアナウンサーとして活躍する。1993年にはFIFAワールドカップアジア最終予選、世間に言われるところの『ドーハの悲劇』を実況。2…
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