前回ご案内のとおり、1月12日から約3週間に亘り、全豪オープンテニス2006の中継で、メルボルンに出かけていた。最高気温がなんと42.7度。吹く風が頬に熱い。日中出歩くのは狂気の沙汰というもので、比較的大人しくしておりました。
(全豪オープンテニス 解説の柳恵誌郎氏と)
大会は、特に男子が面白かった。テニスファンならご存知の通り、王者・フェデラーの2年ぶり2度目の優勝。涙の優勝スピーチが私には意外だったが、王者の孤独・重圧の、これまた凄さを垣間見た気がした。
さて、実況(音声)を担当するために、どのようにしてテニス中継にアプローチするか。それでは、早速お話しましょう。
大会前にアナウンサーは何をするか。中継のアプローチは、まず”テニス・選手・大会・その土地(国・都市)・日本の近況”等、それらの情報を収集・整理・分析することから始まる。”テニス”という場合は特に、情報に知識も含まれるが、具体的に言えば、テニスのルール・テクニカルターム(専門用語)・テニス技術が、知識と呼ばれるものである。情報というのは、昨年や今年のツアー記録・内容、ランキングの確認等をいう。
次に”大会”は、全豪の歴史・過去のデータ・ローカルルールの有無(ヒートポリシー※1 )・大会場所(今回はメルボルンパーク)の基礎データ・大会スタッフの確認・大会運営の資料等、これらが情報に当たる。
以下”選手”は、基本的プロフィール(年齢・身長体重・出身地・親子親戚関係・学歴・病気怪我歴・趣味・モットー・表彰歴・その他スポーツ歴等)・全豪含めたグランドスラム記録・昨年の成績・選手に関する特集記事(スキャンダル的なものも含む)・選手の直前のコメント・コーチ談話・練習の詳細等。
“その土地”は、今回の場合はオーストラリアでありメルボルンであるが、基本データ(人口・歴史・面積・政治体制・主要産業・文化財等)・有名人(特にスポーツ関連)・最近の話題・その時期の天候・スポーツ大会(テニス以外)等。”日本の近況”は、日本の気候(豪州とは対照的)・トピックス的なこと・豪州との関連記事等。
上記の中には、日本にいるときに出来ることと、現地にいってから出来ることとに分かれるが、大会が始まるまでにこれらの情報を、収集・整理・分析するわけである。このときの収集を取材、整理・分析を資料作りと呼ぶ。
資料作りに関しては、アナウンサーによってまちまちのようで、先輩からの方法を踏襲したり、自分で独自に開発したり。要は集めた情報をなるべくコンパクト(出来れば紙切れ1~2枚程度)に纏めて、自分が見やすくなっていれば、それでいい。
私は、テニスに関しては独自の方法で資料を作っている。これらは、アナウンサー個人が大会前に行うことだが、番組を作る上では、制作サイドとの打ち合わせが大変重要になってくる。それでは次に、打ち合わせの流れを説明することにしよう。
今回の全豪オープンテニスでは、出発の1ヶ月ほど前、12月中旬に全体会議と懇親会が併せて行われた。プロデューサー・ディレクター・アナウンサー・解説者が集まり、放送においての基本的な考え方、問題点の洗い出し、スケジュール等の業務連絡、そしてお互いの理解を深める上での意見交換・親睦で、約5時間が費やされた。
番組の基本方針やコンセプトは、当然プロデューサーとディレクターが決める。我々は、それに沿う形で、どうすればいい放送ができるかの方法論を話し合うのである。こうした画作りの方が喋りやすいとか、番組の入りはもっとこうしようとか、こういう企画はどうだろうかとか。
一つ具体的な事例を挙げると、テニスには、2ゲーム毎にコートチェンジのためインターバルが設けられている。これはご存知だと思うが、そのときに、直前のプレーシーンを再生するかしないかで、意見が割れた。私は、再生したほうがいいと考えており、別のアナウンサーは、ライブの画を重視すべきだと述べた。プロデューサーやディレクターは、自分なりの考えを議論にかぶせてくる。こうした意見交換は、その場で結論が出るわけではないが、制作サイドにある種の問題提起をして、番組自体に深みが増す。
もちろん、提案や意見は番組だけではなく、中継体制全体に及ぶこともある。
次回は、中継全体についてのエピソードをご紹介しましょう。
全豪オープンテニス(BS wowwow 実況)
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(※1) 全豪特有のルールで、気温がある数値を超えると、
審判の判断により、試合の開始を遅らせることが出来る。
久保田光彦くぼたみつひこ
フリーアナウンサー
立教大学卒業後、東京12チャンネル(現・テレビ東京)入社。スポーツ実況のアナウンサーとして活躍する。1993年にはFIFAワールドカップアジア最終予選、世間に言われるところの『ドーハの悲劇』を実況。2…
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