この連載も、あと半年で終る。
私のような特殊な物書きに、
こうした発表の場を与えていただいていることに感謝している。
はじめてワープロを手にしたのは、いまから24年前(1985年)だった。
それまでのカナタイプライターと違い、自分が書いたものが、
瞬時に漢字へと変換されるよろこびは計り知れなかった。
最初に、しやわせ、と入力したら『市屋和背』と表示された。
高価な買い物だったのに、だまされたのかと思った。
しかし冷静になり、しあわせ、と入力すると『幸せ』となった。
その夜はうれしくなって、打ち込んだものをすべて漢字に変換したら、
中国語のようになって印刷されてきた若き日がなつかしい。
いとしの恋人のようにそばを離れずに、文書を書き続けた。
以後、ワープロも進化していったが生産中止、パソコンの普及が取って代わった。
ある作家が『泣く人生・笑うは修行・書く根性』という名言を残してる。
振り返ってみれば、いままでにどれほどの原稿を書いてきたのか分からない。
シナリオ・寸劇・作詞・エッセイ・小説・ノンフィクション、
あらゆるジャンルに挑戦してきたが、
いまのところ単行本2冊を出版した結果しか出せていない。
しかし、これからベストセラーを出し、そのドラマ化や映画化のシナリオも
自分で書き、いちやく世間に知られる物書きになるよう、
それこそ『根性』で頑張ろうと思う。
読者諸氏にはあまりの妄想{もうそう}にあきれてしまうだろうが、
きざむように原稿を書き、
必ず足元を根性で踏み固めて、その実現を目指そうと思う。
現在、亡き長男の話を書き進めていく中で、
何度も、また何度も書き直しを繰り返す中で、
自らの才能のなさに、ジレンマにも陥る。
編集担当者からは、読者にとって親切な書き直しを指摘される。
まったくこの世界は、答えがなく、また奥が深い。
それでもやる。いや、やりとげる。
すべてを投げ出してしまうことは簡単だが、せっかくの人生。
自分が障害者だから仕方ない。
そんな理由で逃げる訳にはいかない。
中村勝雄なかむらかつお
小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家
現在、作家として純文学やエンターテイメント小説、ノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより…