2016年4月から電力の小売全面自由化が実施されますが、今回は電力自由化と地域の中小事業者の新ビジネスの可能性について考えてみます。
電力自由化
電力の自由化により電力事業は、発電事業者と送配電事業者、小売電気事業者の三つに再編されます。これまで、大規模事業所や中規模事業所を対象とした小売の自由化が進められて来ましたが、2016年4月より一般家庭を対象とした小売の全面自由化が始まります。これにより、電力とガスを組み合わせたエネルギーのセット販売、通販会社によるポイント付与サービス、携帯電話会社による携帯契約と電力のセット販売等、様々なサービスを受けることができ、需要家による選択が広がります。
電力の自由化によって経営をはじめ、総合的なエネルギー事業としての拡大や地域を超えた事業者の連携が予想されます。対象となる市場規模は7.5兆円との試算があります。
電力の自由化では、既に大手電力会社がそれまでの管轄以外の地域で電気を売ったり、また、大手都市ガス会社や石油会社が発電事業者として参入しています。製鉄所や大規模工場などに見られる自前の発電所を持つ企業が発電事業者となり電気を売ることも行われています。
発電事業者が発電した電気の全てを自社で販売するのではなく、電気の一部もしくは全部を卸売り市場に放出することもできます。電気の販売事業者は卸電力取引所を通して電気を購入し、それを小売りすることもできます。電力の自由化では様々なレベルでの新規参入が可能です。
多様な顧客のニーズ
2016年から全面自由化される一般家庭への電力小売への期待について、経済産業省が行った国民の意識調査では次のような結果が出ています。
・電気料金の抑制:約80%
・多様な料金メニュー:約70%
・現在とは別の電気会社からの購入:約60%
・再エネなど特徴のある電気の購入:約50%
・他のサービスとのセット販売:約50%
上の結果で分かる通り、電気料金が安くなることのみを期待しているのではなく、様々な顧客のニーズがあります。電力小売の全面自由化において地域の様々な中小事業者が、それぞれの特徴を持った方法で電力小売の販売代行事業に参入が可能であることを示唆しています。
なお、一般家庭でこれまでの電力会社以外と契約する場合に特別の電気工事は必要ありません。無償のスマートメータへの取換えを行うのみで、要する時間は15分程度です。
また、何らかの事情で新規に契約した電力会社からの配電が停止した場合でも停電になるようなことがないように、地域の大手電力会社から直ちに電気が供給される仕組みになっています。
電力販売の営業代行や需要家開拓
家庭向けの電力自由化により、電力小売販売分野に新規に参入が有望な事業者は以下の通りです。
①既にエネルギー関連の事業を行っている事業者
LPガス販売店、太陽光発電装置販売、燃料電池販売、電気工務店、ガソリンスタンド等
②地域で小売を行っている事業者
スーパー、家電量販店、衣料品販売店、コンビニ、ドラッグストア、レンタルビデオ店等
③一般家庭向けの商品を製造、販売している事業者
住宅販売、自動車販売、家電販売等
④一般家庭と毎月の取引がある事業者
電話、携帯電話、CATV、有線放送、インターネット事業者等
⑤共同購入、共同販売を行っている事業者
農協、生協、商店会等
⑥信用販売の事業者
クレジットカード会社、通販会社等
⑦公共事業の事業者
都市ガス、鉄道等
上記の通り、様々な事業者にビジネスチャンスがあります。地域の中小事業者は電力販売の営業代行や需要家開拓等の分野で参入が有望です。
LPガス業界の課題
電力の全面自由化において、LPガス業界を例にとり企業の課題を考えてみます。ガス体のエネルギーは都市ガスとLPガスの二つがあります。都市ガスの主成分はメタンで、LPガスの主成分はプロパンです。プロパンは加圧すれば常温でも液化できますので、容器に入れて販売されます。プロパンガス容器の配達により、LPガス販売店は一般家庭と密接な関係をもっていることが強みです。
大手都市ガスの他、大都市近郊には中小の都市ガス会社があり、全国では約200社の都市ガス会社があります。LPガス販売店は全国に約20000店あります。LPガスは1996年に完全自由化され、同業者間で厳しい競争が行われています。また、大都市近郊では都市ガスの配管の拡大とともに、LPガスと都市ガスの競争が激しくなっています。さらに、オール電化推進の電力会社とLPガスおよび都市ガス会社の競争も続いています。
競争の激しいLPガス販売事業では、コストダウンや経営の効率化に努めるとともに、日用品、食品の販売、CATV、宅配水事業と提携するなどして、経営の多角化をはかることも重要です。そして電力の全面自由化に際してはLPガスの販売を維持し護っていくために、顧客に安い電気を販売するなどのサービスの充実が重要な経営戦略の一つになります。
さて、自由化という言葉に踊らされたり、過度の期待を持ち過ぎてもいけません。電力自由化において重要なことは自由化の中身です。依然として電力供給の大半は大手電力会社によって占められています。国民は電力料金の低下や様々なサービスを受けられることを望んでいます。それを実現させるためには、大手電力会社が少なくとも30%程度を卸電力取引所に放出することや、料金規制の平等化、電源調達の公平化と容易化を行政が的確に推進することを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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