大筋合意したTPPにより多くの輸入農産品・食品の関税が撤廃もしくは軽減されます。そのメリットを最も受けるのが食品関連産業です。また、TPPのメリットを活かして日本の農産物や加工食品の輸出促進も期待されています。今回はTPPと食品関連産業についてふれてみます。
TPPと食品関連産業
TPPにより日本に輸入される農産物の81%にあたる1885品目の関税が撤廃されます。表1に日本に輸入される農産物・食品の関税が撤廃される時期の例を示します。
産業別で考えます輸入に関しては食品関連産業が一番大きなTPPのメリットを受けると予測されます。お肉や食材がより安価に購入できますので、レストランや飲食業、ファストフードなどの外食産業やスーパーやコンビニ等の小売業、ホテルや旅館、そして食品加工業には利益が上がり、メリットになります。また、安価な商品や食事を提供することができ、販売が促進されるメリットがあります。
商品価格には流通コストなども含まれますので関税が軽減された分がそのまま価格に反映しませんが、わずかな値下げ額でも消費者の消費・購買意欲に対して大きなインセンティブとなり、売り上げが伸びます。なお、関税の引き下げだけに着目しますと、食品関連産業の中でも原材料を輸入する食品加工産業がより大きなメリットを受けます。
さて、もともと関税の低い品目は関税の軽減や撤廃よりも、為替の変動の影響が大きい場合があります。また、今後増える輸入食品の一部においては、日本人が求める食の安全、安心への対処が必要になる場合もあります。食品業界全体で考えますと、一部では価格競争や輸入品と国産品の競争も起こる可能性もあります。これらの点にも留意しつつ、TPPのメリットを活かしていくことが期待されます。
なお、食の安全について農業関係者や消費者は米国の安全基準が日本にも適用されるのではないかと不安視していました。TPP大筋合意の結果は、食の安全に関する規制や制度は引き続き各国が決められることとなりました。従って、遺伝子組み換え作物を使った食品には使用表示を義務付けるなど、これまでの日本の安全基準は守られることになりました。
また、現在日本では生鮮食品については原産地表示が義務付けられていますが、今後、農産品や食品の輸入が増えることにより、加工食品も原産地の表示が消費者から求められるようになる可能性があります。
品目 | 現在の関税 | 撤廃の時期 |
---|---|---|
ブドウ | 7.8~17% | 即時 |
とうもろこし | 3% | 即時 |
たまねぎ | 8.5% | 即時 |
えび | 1~5% | 即時 |
かつお、べにざけ、すけとうだら | 3.5% | 即時 |
サクランボ | 8.5% | 6年目 |
茶 | 17% | 6年目 |
マーガリン | 29.8% | 6年目 |
菜種油(粗油・精製油) | 10.9~13.2円/kg | 6年目 |
オレンジ | 16~32% | 6~8年目 |
トマトジュース・ケチャップ | 17~29.8% | 6~11年目 |
鶏肉 丸どり、骨なし肉 骨付き肉 |
11.9% 8.5% |
6年目 6~11年目 |
鶏卵 | 17~21.3% | 6~13年目 |
天然はちみつ | 25.5% | 8年目 |
落花生 | 617円/kg | 8年目 |
ワイン | 15%か125円/リットル | 8年目 |
パイナップル | 17% | 11年目 |
リンゴ | 17% | 11年目 |
ハム・ベーコン | 低中価格帯で614円/kg | 11年目 |
牛タン | 12.8% | 11年目 |
まぐろ、ます、ぎんざけ、ぶり | 3.5%~15% | 11年目 |
ハラミ | 12.8% | 13年目 |
あじ、さば | 7~10% | 16年目 |
TPPのメリットを活かして貿易振興と海外進出の促進
アジアからのTPP参加国は日本のほか、シンガポール、べトナム、マレーシア、ブルネイです。もともとこれらの国々の食文化は日本と類似しており、さらに近年の急速な経済発展に伴う富裕層の増加で食生活が豊かになっている背景があります。このためアジアの国々が日本の農産物や加工食品の消費が増加することが期待されます。
しかし、これまでは外資の参入規制などが障壁となり、日本からアジア諸国への輸出が困難なケースがありました。TPPが発効されれば貿易制度が整えられ、規制が緩和されることになります。このため日本企業による海外への輸出や企業の進出が促進されます。すでに日本の大手コンビニや外食チェーンがアジアに進出していますが、これからは中小企業の海外進出が期待されます。
TPPの合意内容は日本経済の活性化と地域産業の一層の振興が期待されるものです。TPPは中小企業にとりましてはメリットが多い協定です。TPPのメリットを最大限に活かすべく、日本政府も日本の製品、商品の輸出振興による中小企業の支援などに様々な施策を実施していきます。また、TPP以外の自由貿易協定の交渉も進んでいます。
TPPなどの自由貿易協定のメリットを理解するするとともに、政府の動向を的確に把握し、また行政の様々な支援施策を活用するなどをして、企業の益々の発展と地域産業の一層の振興が図られますことを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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