自分の性格を分析すると良くも悪くも、どんなことにも後悔しないし、そのとき判断した結果については悔やんだりしない。意地でも、自分の判断には少しも間違いはないと言い張ってしまう性格をしている。俗にいう、あまのじゃくだ。
ところが今回だけは「後悔先に立たず」という先人の言葉に間違いはないと痛感する出来事があった。
先日、あるテレビ局の開局50周年記念ドラマ「刑事一代」が、二夜に渡って放送された。昭和の数々の難事件を解決した有名な平塚刑事の、波乱の半生を描いたドラマだった。
その演出家は、石橋冠氏だった。
いまから20年前、私は「24時間テレビ」の中で交通機関のバリアフリーについてリポートするコーナーを企画して、モデルとして出演した。
番組の性質上、謝礼が出せないということだったので、シナリオライターを目指していた私は、同局の石橋氏に会わせてほしいと、ダメもとで頼んでみた。
すると後日、15分間の面会が実現した。どんなことでもダメもとで頼んでみるものだと思った。
当時の私にとって、石橋氏は雲の上の人のような存在だった。手掛けるドラマは必ず話題になりヒットする同局の看板的な演出家だった。
ところが本物を見た瞬間に舞い上がってしまい、声が上ずったのをおぼえている。
そして矢継ぎ早に質問された。ここまで車イスでどうやって来のか、どうやって原稿を書いているのか。
好奇心の旺盛な石橋氏は、私の説明を大きくうなずいて聞いていた。あっという間に時間は経ち、名刺をいただいた。
それから歳月が流れ、大後悔をしている。その当時の私は、せっかく名刺をもらったのに何の連絡もしなかった。自分のような人間が、天下の石橋氏に相手にされるわけがないと思い込んでしまっていた。
たとえば毎年の年賀状や暑中お見舞い、または近況報告でもいい。なぜ、それを怠{おこた}ってしまったのか。いまとなっては後悔しても遅い。
きっと石橋氏なら、そのたびに返事をくださっただろうし、もしかしたらドラマ作りの仕事にまで発展したかも知れない。
もしも今、石橋氏との関係が続いていたら、いくつも見てもらいたいドラマの企画書がある。こんな時代をどう生きるかという物語だ。
ひとつの出会い(チャンス)をなおざりにしてしまった後悔は大きい。これからは新しい出会いをしたときに、そこには大きなチャンスがあることを信じて行動していきたい。
中村勝雄なかむらかつお
小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家
現在、作家として純文学やエンターテイメント小説、ノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより…
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