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2016年04月08日

パリ協定と地球温暖化対策の展望

 昨年11月~12月にパリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されました。今回はパリ協定と地球温暖化対策の展望についてふれますが、日本の将来の為にやや辛口のコメントをします。

温室効果ガスの削減目標とパリ協定

 これまで各国が表明している温室効果ガスの削減目標は表1の通りです。

表1 各国の温室効果ガスの削減目標 (COP21)
国 名 削減目標 比較年
日 本 2030年までに26%削減 2013年
アメリカ 2025年までに26-28%削減 2005年
E U 2030年までに40%削減 1990年
中 国 2030年までにGDPあたりの二酸化炭素を60-65%削減 2005年
インド 2030年までにGDPあたりの二酸化炭素を33-35%削減 2005年
ロシア 2030年までに70-75%に抑制 1990年




 COP21で採択されたパリ協定の主な内容は次の通りです。(1)すべての参加国が2020年以降の温室効果ガスの削減目標を申告し、5年ごとに削減量を増やす方向で目標値を見直す。(2)21世紀の後半に温室効果ガスの人為的排出と吸収の均衡、すなわち実質排出ゼロを達成して、地球の気温上昇を産業革命前比で2℃未満に抑える。(3)地球温暖化対策に対して先進国は途上国に対して2020年まで年間1000億ドルを支援し、それ以降も資金援助を約束する。

 このパリ協定に対しての捉え方は様々で、たとえば次のような意見が聞かれます。 A.パリ協定は法的拘束力を持ち、その採択は地球温暖化問題の解決に向け画期的な成果である。 B.パリ協定の目的を達するためには相当量の排出削減が必要であり、企業活動が大きな影響を受ける。 C.パリ協定には法的拘束力は無く、発効も危ぶまれる。もはや締約国会議(COP)の役割も終わった。  Aの意見は環境活動家や温暖化問題に関わっている人たちからよく聞かれます。Bのコメントは、製造業等の企業で温室効果ガスの削減に取り組んでいる方々からよく聞かれます。AとBの捉え方に対して、Cは正反対の意見です。  1997年に京都議定書が採択されましたが、日本では行政指導のような形で業界ごとに削減目標を定めて温室効果ガスの削減が行われました。排出の削減はエネルギー使用の削減であり、企業によっては生産や売上げの削減につながり、苦しむ企業もありました。 地球の気温上昇を産業革命前比で2℃未満(もしくは1.5℃未満)に抑えるというパリ協定の目標を達成するためには、温室効果ガスの排出を相当削減しなければなりません。

パリ協定の展望

 パリ協定に関する私の見解は上述のCです。そう判断する理由は多数あります。以下に主な理由を説明します。 (1)パリ協定では温室効果ガスの排出量削減目標の提出や実績点検などにおいて、一部は法的拘束力を伴いますが、各国の削減目標には法的拘束力はありません。(2)パリ協定は現時点では単なる協定であり、発効のためには世界の温室効果ガスの総排出量が55%以上となる国々が、そして少なくとも55ヶ国以上の国で国会の批准が条件です。(3)新興国・途上国と先進国の基本的な考え方の違いで、結局パリ協定が発効しない可能性があります。  実は1997年に採択された京都議定書も発効が危ぶまれました。2005年にロシアの国会で批准され、ようやく総排出量が55%以上の国々の批准が満たされ発効しました。当時ロシアは途上国扱いで削減義務はなく、また京都議定書に参加することで労せずして市場取引できる5兆円をこえる排出権を得ることが出来きました。  さて、上述(3)に関しまして、新興国・途上国と先進国の主張は次の通りです。 (1)中国、インドなどの新興国、途上国の主張 現在の地球温暖化は産業革命以来、大量の二酸化炭素を排出してきた先進国に責任がある。途上国・新興国は先進国と同じように発展する権利はあり、先進国と同じ義務を負うことは不公平である。(2)日本や米国などの先進国の主張  世界各国が参加して公平に削減義務を負うならば、目標をあげて排出削減に参加する。

 この対立は2012年に終わる京都議定書の次の議定書を決める過程で鮮明になり、意見の対立が原因で新しい議定書は決まりませんでした。中国やインドはGDPベースの削減目標を掲げていますが、GDPベースでは温室効果ガスの削減ではなく、増加になる可能性があります。そもそもGDPベースの削減目標は今後何もしない可能性もあります。

温暖化問題の展望

 京都議定書において、日本では製造業などで温室効果ガスの削減に苦労しているときに、民生等で排出が著しく増加しました。結局、6%削減目標は排出権を買取ってお金で解決しました。買取価格は公表されておりませんが、政府と民間合わせて数千億から数兆円のお金が支出されたと推測されます。 京都議定書は国内的にも国際的にも失敗であったと言えましょう。最大の原因は、当時の政治家が産業界や専門家の意見に耳を傾けず、スタンドプレー的に京都議定書を策定したことにあります。 原発事故や現在のエネルギー事情、経済情勢を見ますと、京都議定書の後に日本だけが行った行政指導的な方法で各業界に温室効果ガスの排出削減を、日本政府がまた産業界に求めることはもうないであろうと思われます。また、先進国と新興国・途上国が合意して法的拘束力ある削減目標をかかげて国際社会が取り組むこともないと思われます。 今後も世界は温室効果ガスを排出し続けるでしょう。昨年茨城県の鬼怒川で堤防の決壊による大水害がおきましたが、温暖化により日本では大雨・水害の被害が増えていくでしょう。二酸化炭素などの排出削減にお金を使うよりも、豪雨洪水などの災害対策、農業・漁業対策などにお金を使う方が現実的な対策と思われます。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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