先日、あらためて人との出会いの不思議さを痛感する出来事があった。大きなターミナル駅でのこと、JR東日本の『ご案内』という腕章をつけた若い女性の駅員さんにお世話になった。
ちょうど電車が行ってしまったばかりで、暑いホームで話をした。
「暑いのにお手数かけて、すみません」
「いえ。そんなことありませんよ」
膝{ひざ}を落として体勢を低くした彼女の胸には、サービス介助士・石井めぐみ(仮名)とネームプレートにあった。サービス介助士という社内独自の研修があるのだろうと想像した。車イスと同じ目線の高さにするのも、その研修の中にあったのかも知れない。下車駅を再度、間違いがないよう確認された。
「こういうお仕事だと、不規則だから大変じゃないですか? 彼氏さんとデートするのを時間合わせるの難しいでしょ」
「それはあるんですよね。友だちに誘われても、なかなか行かれなくて」
「でも石井さん、とっても制服似合{にあ}っていて、かっこいいですよ」
「ありがとうございます。友だちとかにも偶然会って、わからなかったって言われます。ふふ」
ちょっと昔なら、駅員さんとこんな談笑するなど考えられなかった。理不尽極まりあい扱いをされたこともある。思えば1987年に国鉄がJRになって、23年が経つ。たぶん石井さんも、そんな年齢だろう。赤ちゃんが社会人になるほどの劇的な変化が起こっている。
しかし、駅だけではなく社会全体のバリアフリー化が進み、その場で出会った方に階段など手を借り、車内で名刺交換をして友人になり今だに何十年経っても家族ぐるみの付き合いがある。
だから最近は、そんな出会いがなくバリアフリーの弊害{へいがい}を感じていたが、石井さんとは親子ほどの歳の差を越えて、こんな話までした。
「めぐみって、いいお名前ですよね。知り合いにも『めぐみ』という友人が三人いますが、みんな幸せなママしてますよ」
うれしそうに石井さんは微笑んだ。わずか出会ってから10分ほどなのに友人になっていた。
「でも小さいころお習字で、めの字がつぶれてしまうからキライな名前でしたけど。幸せになれる名前なんですね」
「そうですよ。きょうは、ありがとう」
「こちらこそ。では、お気をつけて。またお会いしましょう」
電車がホームに停車して、石井さんは入念に安全確認をしてから車イスを車内に誘導してくれた。たぶん、また石井さんとお会いする日は近いと思う。
中村勝雄なかむらかつお
小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家
現在、作家として純文学やエンターテイメント小説、ノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより…
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