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コラム 政治・経済

2009年09月04日

鳩山政権、日本の将来像を描けるか

8月30日に行われた総選挙、民主党旋風が吹き荒れた、自民党、公明党は大きな打撃を被った。この選挙は、民主党が支持されたというよりは、自公連立政権が支持されなかったというほうが正確だと思う。民主党の実力がどれほどのものか、そこはまったく未知数だからである。

日本を取り巻く情勢は厳しい。景気は一応下げ止まったように見えるものの、雇用の回復にはまったく至っていない。7月の失業率は過去最悪の5.7%、有効求人倍率は0.42とこれも過去最悪である。雇用が回復しなければ景気の本格的な回復はおぼつかない。

日本経済の根本的な問題はここにあると思う。企業の動向を見ていると、雇用が増える方向にはない。たとえば日本のリーディングカンパニーであるトヨタは、国内外で100万台の生産能力をカットするという。「減産」というのは一時的に生産を減らすことであるが、「生産能力カット」とは恒久的に減らすことだ。逆に言えば、需要が増えることは期待しにくいとトヨタが判断したということである。

キリンとサントリーの経営統合という大きな動きも、雇用にとってはマイナスでしかあるまい。経営を統合して海外展開に備えるということは、裏を返せば、統合によって生じる国内の余剰人員をカットし、海外展開の力を蓄えるということに他ならないのである。

かつてのように、国内需要が伸び、それに合わせて企業が生産能力を増強し、雇用が増える。消費が増えて、それが企業の増産に結びつくという成長サイクルは、基本的に日本では望めなくなっているのである。

そうした日本の状況と金融危機は直接的には関係がない。日本が「円安バブル」で戦後最長と言われた景気拡大に酔っていたときでも、この日本経済の根本的な病因は、日本経済をじわじわと蝕んでいた。アメリカで金融危機が爆発したために、日本の病気の進行が速められただけである。この病気の名は、構造的内需不足である。

治療法がまったくないとは思わない。内需を促進する方策はたしかにある。高速道路料金を休日に引き下げただけでも、とりあえずは消費を促進することができた。ただこの政策が治療法としてコストに見合うものかどうかという問題は残されている(民主党が打ち出している高速道路の無料化も同じことだ)。高速道路料金の引き下げや無料化は、結局のところ道路の維持管理費用を税金で賄うという話だ。せっかく受益者負担という形で、利用者が支払うという制度が定着しているところに(料金が高いか安いか、道路会社に無駄はないかなどは別問題)に、わざわざ税負担で道路を維持しても、無料化することで経済が刺激され、それに見合う税収があがるという計算なのだろうか。高度成長期ならいざ知らず、現在のような状況でそうした机上の計算が成り立つのかどうか、じっくりと見なければなるまい。

おそらく一番の内需拡大策は、将来に不安を感じている引退した世代に、安心感を与えることだろうと思う。年金もそうだし、医療や介護もそうだ。税金を注ぎ込むなら、こうした分野に注ぎ込むことによって、引退世代は貯蓄を使ってくれるかもしれないし、医療や介護といった分野に雇用も生まれる。

環境や代替エネルギーといった新しい産業や技術に期待するというのはわかりやすい。しかしそうではないもっと足元の産業やサービスに力を入れることこそ、日本という国の将来像にもつながる新しい形を提示することにつながると思う。

とりわけ個人向けのサービス分野は、効率化やコスト削減といった従来の市場の論理とは違う論理が働く。たとえば足の爪切り屋が存在するのはなぜなのか。殺人事件ですっかり有名になったが、耳あか取り屋が存在するのはなぜなのか。心地良くしてくれるサービスに人は対価を支払う。

高齢化が進む社会では、そうしたサービスはいろいろ考えられるだろう。ハイテクだけに頼らない新しいサービス、それが雇用を生み出すカギなのかもしれない。

鳩山政権が、ハイテクばかりに踊らされることなく、もっと足元を見つめて日本の姿を考えられるかどうか。そこに民主党政権の将来もかかるが、日本の将来もかかっている。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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