地球温暖化の議論の中で、エネルギーや資源の将来を考えるときによく使われる言葉に「可採埋蔵量」、「可採年数」がありますが、ほとんどの場合にこれらの言葉が正しい意味で使われていないようです。
例えば、「石油の可採年数が41年」という場合に、石油はあと41年で枯渇すると解釈されていますが、それは大きな間違いです。ではその正しい意味は何かを今回述べてみます。環境問題やエネルギー問題を考えるときに、用語の意味を正しく理解しておくことが大切です。
【可採年数の不思議】
1960年頃に石油の可採年数は「約35年」と言われ、その後も「石油はあと35年」と1985年頃まで言われ続けました。何年経っても石油の可採年数は減少しませんでした。さらに1980年代の後半から石油の可採年数は約40~45年と言われ、現在に至っています。この間に世界で毎年毎年新しい油田が発見され続けた訳でもありません。直感的に考えると不思議に思えるかもしれません。
近年は大きな油田の発見はありませんが、原油の価格は現在まで上昇してきました。1973年に原油の価格が1バレルあたり約2ドルでしたが、その後のオイルショックで10ドル程度に急上昇しました。一昨年の夏には投機により135ドルぐらいまで高騰しましたが、現在では80ドル程度です。この原油価格の上昇が不思議を解く「鍵」です。
【可採埋蔵量の正しい理解】
地球上に存在する資源の埋蔵量のうち、「経済的」に掘り出すことのできる量が可採埋蔵量です。重要なことは「経済的」にということで、掘り出しても損をせず採算がとれることを意味します。資源は様々な所に埋蔵されていますが、その場所や形態、純度などで、採掘に必要な経費は異なってきます。
例として金を考えてみます。ある金鉱山で採掘や精錬で金1グラムあたり4000円のコストがかかるとします。そのときに市場での金の価格が1グラム3000円の場合は、掘り出せば掘り出すほど損をすることになりますから、誰も採掘は致しません。しかし、金の価格が上昇し1グラムあたり5000円で売れるとなりますと、経済的に採算がとれることになり、金の採掘が行われる可能性が生じます。
結局、資源の価格が高くなれば、掘り出しても採算の合う資源は増えて行き、可採埋蔵量は増加します。石油も同じで、価格がもし1バレルあたり200ドルぐらいになりますと、可採埋蔵量は一層増えるでしょう。
可採年数は、可採埋蔵量をその年の世界の生産量で割った数値です。石油などの大量消費される資源の生産量は年ごとに大きく変わることはありませんので、可採年数は可採埋蔵量に比例すると考えてよいでしょう。
【原始埋蔵量と資源の将来】
経済性とは関係なく、地下に存在するある資源の総量を原始埋蔵量といいます。石油の場合、「オイルシェール」や「オイルサンド」などを考えますと、可採埋蔵量の10倍近くの量になります。オイルシェールは油分を含む岩石のことで、オイルサンドとは油分を含む砂のことですが、これらは油分を抽出し化学処理することによって燃料として利用できます。
採掘や利用コストの安い順番に資源が消費されて行きますが、需要と供給の関係で価格は上がっていくでしょう。資源の価格が上昇すれば、可採埋蔵量も増えていくことになり、可採年数も増加します。石油の可採年数が41年だから、41年後には石油が枯渇し、ガソリン自動車は姿を消し、人間社会が太陽や風力に頼ることになると考える事は誤りです。
上記のような考えは、基本的にはあらゆる資源に当てはまります。今話題になっているレアメタルにも同じような事がいえます。
その他の資源の可採年数として、石炭は147年、 天然ガスは63年、ウランは85年といわれています。エネルギーや資源の未来を考える場合のポイントは「経済性」です。経済性や採算性をキーとして、「可採年数は枯渇するまでの年数でない」と、用語の意味を正しく理解して、将来の動向を的確に把握されることをご期待いたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…