昨年大方の予想に反して英国のEU離脱やトランプ大統領の誕生がありました。北朝鮮情勢も緊迫しています。不透明な国際情勢の中、為替レートや株価、金利等を中心に世界と日本の経済について触れてみます。経済は様々な要因が影響しますが、基本となる重要な要因を知ることにより、経済動向の大要を把握できます。
為替レート、円安と円高
為替レートとは自国の通貨と相手国の通貨との交換比率を決定するための概念で、ドルに対して円安とか円高という場合は、円とドルの為替レートの変動のことです。
さて、為替レートは様々な要因が影響しますが、突き詰めれば二国間の経済状況の相対的な関係で大要が決まります。一般に、経済状況の好調な国の通貨の為替レートは高く、不調の国の通貨は低くなります。
かつて、1ドル80円程度まで円高が進みましたが、その時に日本経済が好調であった訳ではなく、リーマンショックの米国、債務危機の欧州が日本に比べて景気が低迷していたためです。
今は円安と言われていますが、現在は日本や米国、欧州の経済はそこそこ好調です。従って現状は円安というよりも、「円普通」の状況と考えられます。もし、米国や欧州に比べて日本経済が低迷しますと、1ドル130円、140円と進み、真の円安となります。
円安や円高はドルに対しての表現です。従って、後で述べる各国の株価と違って、同時に円安、ドル安、逆に同時に円高、ドル高になるようなことはありません。為替レートはあくまでも相対的なものです。
なお、円やドル、ユーロなどの基軸通貨に対して、基軸通貨でない場合はドルなどに対して固定的な為替レートで取り扱われる傾向があります。従って、自国の経済が低迷していても、ドル高に引っ張られて自国通貨高になり一層経済にマイナス影響が生じる場合もあります。
円安のメリットについて、「円安になると日本製品の価格が安くなり、よく売れるから」としばしば言われていますが、これはあまり正確な表現ではりません。円建てで取引ができる会社は極めて少ないです。世界経済に一歩足を入れると、ほとんどはドル建てで取引されます。
海外で100ドルの利益を上げたとき、1ドル80円であれば日本円で利益は8000円、1ドル120円であれば利益は12000円になります。ドルで商売をして利益を円に換えたときに、円安の方が利益が大きくなります。円安のメリットは端的に表すと以上の通りです。
円安になると総ての産業がメリットを受ける訳ではありません。円安がメリットになるのは、自動車、機械、電機などの輸出型製造業です。エネルギー産業や原料輸入を輸入して国内向け製品のメーカー、日本人の海外旅行者には円安はデメリットになります。
世界の株価と日本の株価
為替レートと異なり、その国の株価はその国の景気動向とはあまり関係はありません。大まかな傾向としては、世界の景気が全体的に良ければ、世界的に株価は上昇します。現在、日本、米国、欧州ともに景気は好調ですので、全体的に株高となっています。
世界が一層好景気になりますと、ビジネスで得た利益が株の投資に回りますので、世界の株価も一層高くなります。さらに好景気が進み、株価が高くなりすぎますと、投資が原油などに回ります。その結果、原油価格が高騰します。今述べたことは、2008年のリーマンショックの前の世界経済の状況です。2007年には日本の株価は当時最高値を付け、翌2008年には原油価格はバレル145ドルにも高騰しました。2008年9月のリーマンショック発生で、世界各国の株価、国際原油価格ともに下落しました。特に原油価格は1バレルが30ドル台まで暴落しました。
世界各国の株価が世界経済の動向に関連していますと、当然各国の株価に連動性が生じます。特に、米株と日本株との連動性は顕著です。ドル単位のダウ平均と円単位の日経平均の数値が近い値で推移します。
なお、世界の視点で日本株を見るときは、円安、円高などの為替レートの変動にも着目しなければなりません。円安の進行中に日本の株価が徐々に上昇している場合、国内では株価が上がったと感じられるかもしれませんが、ドル建ての海外からは実は日本の株価が下落していると見える場合もあります。
金利と経済対策
ここで取り扱う金利は、中央銀行が民間金融機関に貸出しする場合の金利のことで、公定歩合ともよばれるものです。一般に、金利を上げればその国の通貨が買われ、お金が集まるなどの経済効果があります。また、金利を上げると株価が上がるとも言われますが、その影響は小さいです。
さて、金利政策もいわゆる金融政策の1つですが、景気に与える影響は小さいです。古典的なケインズ経済学では、経済対策として利子率の切り下げ、社会基盤等への政府投資を行うことにより、景気を上向きにしましたが、現在ではこの手法はあまり機能しません。金融政策は経済にあまり大きな影響を与えないということは、世界の常識です。
経済がグローバル化している現在では、一国の経済の動向は外的要因に大きな影響を受けます。たとえば、2001年の米国での同時多発テロや2008年のリーマンショックの影響を日本経済は受けました。
日本では三本の矢と称して景気対策を行い、円高や株高を期待していますが。円の為替レートや日本の株価は世界の動向を大きく受けることは先に述べた通りです。
2016年の日本でのサミットの前に、日本は各国に世界の景気浮揚に金融政策などの共同歩調をとることを呼びかけましたが、結局実現しませんでした。ある国の首脳は、金融政策は景気に与える影響は限定的である、すなわち効果はないという趣旨の発言をしています。
世界情勢は激変していますが、経済の基本事項をしっかりと理解しますと、世界や日本の経済動向を的確に把握できることと思います。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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